第0階層 学園帝国 工房棟 あぐりっぱのへや
アグリッパ ・
「耳長族専門のエンジニアっすからね。丸耳族の聖母さまだと聞いたとき無いのも無理無いっす」
それは珍しい。でも耳長で塔に潜っているのって泥水ちゃんくらいでは?いや、見聞のためにガチガチに護衛で固めて入ることがあるのかもしれないね。
拳鍔シミターの生みの親ならそれなりの腕前だろう。異形だけども造り自体は実に基本に忠実で丁寧だ。
あの異形シミター、指が欠けていても握り込んで使えるようにつくったのだそうだ。
闘技場での一対一というレベルの上げようがない構成の塔で2階層目にして《詰んだ》後も3年間、レベル2の泥水ちゃんがレベル30相当のオークロードさんと対等に戦えるよう、打ち勝てるよう、アグリッパ某とかいう手長は泥水ちゃんのための武器を考え続けてきたのだ。
「手長を見るときは服装で判断すると良い。帽子とかアクセサリは、まあ、趣味みたいなものだ。服を見れば、その手長が何を体現したいかがわかる。それで派閥も知れる。ぼくの場合、工学的思考のもと、医学的手法でもって、魔術的表現をもたらす。といったところか。ぼくは魔術畑の手長さ。錬金術だの移植手術だのと同じ《術》のレベル、未だ学門でない未開人の叡智の、その後継者だ」
首の皮一枚で繋がってるようなエロエロなワンピース水着を着た、ゴム手袋片手に溶接マスク被ったちみっこいのが皮張りの椅子にちまっと座っていた。
長々ロリロリと舌ったらずに何やら説明しているが、つまりアグリッパ某は露出の激しい文化の出身ってことでよいのかな。顔は隠れてるけど。
「なるほど、
ちなみに手長共は我らのことを足長と呼ぶ。耳長共は丸耳、尾長共は尾張、信長は猿って呼んでる。
「泥シー、臥土君のおかげで、指もすっかり生え揃ってるけども、普通の刃物に戻さないのかい?」
「せっかく指が5本増えたのに全部塞いだらもったいないっす。腕2本分戦略の幅が増えるっす!合わせて4本っ。無敵!でふふふふ。アパちゃん、今日からは私のことはスレイプニル泥水と呼ぶっすよ」
「泥シー、その理屈はおかしい」
交渉したらアグリッパ某は我ら一味の専属になってくれた。
我のサイズやら魔力やらいろいろ測ってもらったら消灯時間になったのでそのまま工房棟に泊めて貰うことになった。
我は今はアグリッパ某との裸のつきあいの真っ最中。
手長共は開発やら製造やらが生き甲斐なので自分の工房に自室がちまっとくっついている。
手長自体ちまっとしているから全く不便で無いらしいが、一緒に入る我はバスタブもベッドもキツキツで身動きが取れない。ちなみに泥水ちゃんは工房で雑魚寝している。
「消去法で選ばれただけだけども、臥土君との相性は抜群だと思うよ。あの子は非効率で合理的なことを平気でするからね」
膝の上でアグリッパ某はもごもごロリロリと得意気である。マスク外しなよ。
それで、非効率で合理的ってなんだ。割りに合わないけど理には合うってこと?なに、泥水ちゃんは正義のヒーローってこと?
「ぼくにとってはそうかな。臥土君もすぐにわかるさ」
翌日、オークロードさんの御玉体はアグリッパ某に預け、泥水ちゃんはとりあえずの新しい武器として、鍔と柄の付いた太い鉄串を幾本か得た。
「ついに、ついに冒険がはじまるっす!成り上がって勝ち上がって、ぐふふへへへ」
夢だの目標だのは純粋なほど原動力となって前進しやすいものだ。純粋は単純と言い替えてもよいし、目標は欲望と替えてよい。
不純ではあるが単純である夢があれば、そうそう志しを違えるなどして挫折することも無いだろう。
そう言う点では、欲望に純粋な泥水ちゃんは我に相応しい人材だ。彼女とは長い付き合いをしたいものだ。
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