第0階層 学園帝国 工房棟

  バイオハザード用のシャッターラインを越えた先にある教室の群れでコンピューターはメラメラと燃え鍛冶炉はピコピコと明滅、白衣を着たちみっこいのが鉄槌片手に黒魔術の儀式をしている。



 どこもそんな感じだ。せいぜい、中にいるちみっこいのがツナギを着て魔術杖を噛っているか、全裸に黒マントで駒込ピペットをぷにぷにしているかの違いしかない。



「オークロード素材の武具っすよーっ。これ、これで私も一流冒険者仲間入りっ。なんつってっ。でへへへへ」



 浮かれすぎてキモいね。



 我と泥水ちゃんは学園内にある手長共の工房棟に来ている。



 自己を大きく見せたいがために迂遠な言い方をしていたが、どうも泥水ちゃんは行きつけの工房に大量の借金を抱えており、その返済を、10時間かけて楽勝に倒したオークロードさんの素材で賄うどころか「倒した実績」という形の無いものを担保に更なる借金をして武器防具を新調するつもりらしい。



 これも才能か。



「いよういよういよう。そこにおわすは聖母サマじゃねえーカ」



 あ、木苺心子きいちごこころこちゃんとその一味があらわれた。



 心子ちゃんは可愛らしくて綺麗な名前と心の持ち主だけど、その口調とおっぱいが狂暴と評判の優秀な冒険者だ。10代の生徒臣民では当代最高とも名高い。泥水ちゃんとは確か同い年だったかな。



「おいおいおい。おだてても何も出ないゼ。後で部屋来いよ。いっしょに飯食おう」



「おー。聖母さまの特濃ソースがけ、わたくし大好物。ぜひともお呼ばれたい。」



「何だか聖母様にソースがかかってるみたいに聞こえて背徳的でござる」



「まあ、我も結局、半分びちゃびちゃになるしね」



「おいおいおい。それまだ引きずるのかヨ!」



「「「「わっはっはっはっ」」」」



 あ、泥水ちゃんのこと忘れてた。輪に入れないでまごついてら。



「おう。あんたがエルドラド泥水…カ。噂はかねがね」



「ど、どうもっす」



「いや。本当はオレサマが一番乗りでパーティーに入りたかったんだけどナ。母性適性が高かったもんだから。子ども産んで育てて、そのあとやっと参加なんだよな」



 我が《神乳》は強力過ぎて子供を生む予定の女子生徒臣民には禁止されているのだ。諸事情で精子サンプルも節約しないといけないし無駄射ちは避けたい。そこで我らが《神兵計画》は子供を産まない女子生徒臣民で絶賛試験中というわけだ。



「ふ、ふはははっ。最強の勝ち馬に一番乗りっすっ。お前じゃないっ。私が一番っすっ。次期生徒会長の座もいずれは私のものっすっ。やーいやーい」



「ああ。そうなるかもナ」



「やー、え、はい」



「あんたがいてくれて助かる。臥土ふしどのことをよろしく頼むゼ」



「あ、はい」



「いよういよういよう。聖母サマよウ。冒険はまだしばらくは、始まらねえな」



「あのー、私とはじまってる…っすよ」



「待つよ。我はいつまでも待ってる。10年でも20年でも。あっという間さ」



「いえ、ですから、あのー」



 本来ならば心子ちゃん待ちで我が塔の攻略開始は10年後の予定だったのだけども、そうも言ってられなくなって、泥水ちゃんみたいに運悪く《詰んだ》生徒や泥水ちゃんみたいに残念ながら母性適性の皆無な生徒を特例で参加させることになったのだ。



「じゃ、じゃ、じゃ。またナ。聖母様」



「やー。また今度。是非ともわたくしおしゃべりしたい。」



「左様ならこれにて。御免」



「我も喋りたいな。また四人であそぼうねー」



 まあ、心子ちゃんとそのメンバーはしょうがない。学園帝国としては、優秀な次代を残して貰わねば。



「私は当て馬…私はスペア……」



 おや、どうして落ち込んでいるんだろう。これ以上堕ちようがないくらい底辺に沈んでいるくせに。もう、滑稽なんだから泥水ちゃんは。


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