第10話 最初の探索

校舎を出ると、急激に恐怖が降り注いできた。暗闇の世界は重力すら重く感じ、歩く足を鈍らせる。


「おい、生徒会班だぜ」


同じように探索にでる運動部選抜のPTにできわしてしまった。しかもよく知ってる連中が混じっている。


「口だけの生徒会長の犬に、世間のはみ出し者、それにぶっ壊れた野球部の不良品と、根暗なクラスの底辺女、しまいには世間を知らないお嬢様とは、素晴らしいパーティーじゃねえか」


質の低い嫌味を言ってきたのは、あのクラスメイトの東雲だ。俺はいつものように無視しようとしたが、龍平が黙っているわけなかった。


「殺すぞテメー」

「おっ、やっぱり不良は怖い怖い。だけどよ、俺たちに手を出したら大変なことになるぜ? なんせ、俺たちは刈谷先生の直属部隊だぞ! 配給が無くなってもしらねえからな」


「はあ? 刈谷の犬が生徒会長の犬とかよく言えんな」

「い、犬じゃねえ! 直属部隊だ! 信頼されてる側近なんだよ!」


何が違うのかよくわからないけど、こんな奴の相手をするのも馬鹿らしい。俺は無言で龍平を止めて、東雲のPTから離れた。離れる間も、東雲からの罵詈雑言が聞こえてくるがレベルの低い言葉の羅列になんの感情も揺さぶられなかった。


「それでどこに向かうんだ」

「このまま下へ向かうルートを探して探索しようと思ってる」

「下へ? ちょっとそれはリスキーじゃねえか、出口が見つかるかもしれねえし、上に行った方がいいんじゃないか」

「おそらく運動部選抜も同じように考えて上を目指すと思うから、そっちは彼らに任せよう。出口がみつかったらさすがにこっちにも情報はくると思うからね、それより今は生存に必要な物資の確保を優先したいんだ」

「なるほどな、確かにそうだな、あいつらの後をちょろちょろ付いて行っても意味ねえからな」



下へのルートはすぐに見つかった。校舎から200mほど離れた空間にある岩陰で、急な坂道が下へ向かって続いていた。


「急だから一人づつゆっくり降りよう。それと二人以上で明かりを絶やさないようにして気を付けないと」

「そうか、モンスターがそこらじゅうにいるんだったな」


忘れていけないモンスターの存在、今は明かりに近づかない習性があるから大丈夫だが、もし、明かりに慣れてきたらと思うと恐怖を感じる。その場合の対策も考える必要があるかもしれない。


坂道を100mほど下ると、急に雰囲気が変わった。校舎がある空間は完全な洞窟みたいな場所であるが、こちらは遺跡の外壁が続くような、人工的に作られたような感じを受ける。ここがどれほど地下にあるかわからないけど、決して浅い場所ではないだろう。そこに人工的な痕跡があることに強烈な違和感を感じる。そう、まるで異世界にでも迷い込んだような感覚をこの時、実感した。


さっきまでの洞窟とは違い、ここはゲームなどで表現される迷宮そのものだと感じた。あきらかに自然に作られた空間ではない人工的に続く通路を、警戒しながら探索していた。


「ここはいったいなんなんだ? まるでRPGゲームのダンジョンだな」

ランタンで周りを照らし見ながら信長が感想を言う。それに対して龍平が反応する。


「実際、ありえると思うぜ、いきなり校舎がわけわからない洞窟の中に瞬間移動したくらいだからな、実はゲームの中に入ってしまってましたって話になっても今更驚きはしないな」


二人の言うように、ここまでの状況が非現実的な以上、これから先が現実的に進むなんて保証はない。


「それより、ちょっと周りが明るくなってませんか、ランタンで届かない場所もうっすら見えるようになってきたような気がするんですけど」

「天野さんの言うように、この人工的なフロアーにきてから完全な暗闇ではなくなっている。壁が発光しているのか、全体的に明るくなっていね」


奥に行くほど壁の発光はどんどん強くなってきて、ランタンがなくても探索できるほどになっていた。ここまで明るいと、あの怪物のことを気にする必要はないかもしれない。


しかし、そんな安心を打ち砕くように、目の前に恐怖の存在が姿を現した。ヌメヌメした肌に、爬虫類のような頭部、手には手作り感のある槍のような武器を持っているモンスターだった。ゲーム的な呼び名で言うならリザードマンというべきだろうか、そのリザードマンが二体も、死角から飛び出してきた。



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