第9話 分裂の危機

「運動部を中心とした生徒たちは、教頭と俺が仕切ることになった」


生徒会長と副会長に向かって、刈谷先生はそう言い放った。


「教頭先生、刈谷先生は教員です。全生徒の仕切りをしていただけるのなら、それでも構わないのですが、どうして運動部を中心とした生徒だけなのですか?」


生徒会長の主張はもっともだ。しかし、それに対して教頭と刈谷の言い分は大人の意見とは程遠いものだった。


「この状況で文化部や帰宅部のやつらがなんの役に立つんだ? 働かざる者食うべからずだ。役に立たない奴らの面倒なんぞみる余裕なんてあるわけないだろ」


久しぶりにイラっと怒りがこみあげてくる。生徒会長と副会長も同じようで、表情がこれ以上ないくらいに険しくなっていた。


「わかりました。それでは文化部などは生徒会が仕切らせていただきます」

「ふんっ、そうだな、よろしく頼むよ。あっ、そうだ、この際だから校舎も分けた方がいいだろう。運動部は部室のあるB棟と、となりの本校舎を使うから、君たちはA棟と、特学室校舎を使いなさい」


「ちょっと待ってください! 特学室はともかく、A棟にはバリケードもなく無防備すぎて使い物になりません! 特学室棟だけでは残りの生徒を収容するのは──」

「A棟にバリケードを設置すればいいいだろ。人数だけはいるんだからどうにでもなるだろ」


生徒会長が何か言い返そうとしたが、副会長がそれを止めた。おそらくこいつらに何を言っても無駄だと判断したのだろう。


さらに最悪なことに、運動部会は水や食料も半分以上の量を要求してきた。怪我人などもこちらに全部押し付けているので、人数だけはこちらの方が多いのに、物資は向こうより少ない量でやりくりする必要となってしまった。



「こちらに運動部選抜隊の成果は期待できなくなった。良太くん、すまないが早急に成果が必要になってしまった。申し訳ないが、すぐにでも探索に出てもらえるだろうか」

「わかりました。その方がいいでしょう。最低でも水の確保は必須ですね」

「どうだろう、可能性はありそうかい」

「怪物が生きているくらいですから、何かしらの水分は存在するでしょう。それが人間に摂取できるものかは別の問題でしょうが、必ず見つけてきます」

「頼りにしてるよ、もはや君たちだけが頼りだ」

「あの、それですが、運動部選抜の成果がこちらに受けられないとなると、俺たちだけではどうしても人手不足だと思います。できれば別班を作る必要があると思うのですが」

「うん、僕もそれは必要だと考えていた。すでに副会長に別班を選抜するように指示してある」


さすがは生徒会長だ。その辺はぬかりがないようだ。



兎にも角にも状況的に探索を急ぐ必要ができてしまった。俺たち生徒会班は、準備をしてすぐに出発することのなった。


用意した道具は、武器としてバット二本、洋弓一本、矢12本、手作りのスリングショットを二つと、十分とは言えないが、最小限、身を守る道具としては機能しそうだ。それ以外ではアルコールを使用して作ったランタンを三つ、電池を使用するライトを二つ、30mのロープを一つと、分析用の水を持ち帰る500mlの容器を三つなど、後は簡易的な食糧と一人500mlの水などを携帯する。


「俺と天野さんがスリングショットを、龍平くんと信長くんはバットを武器に、最大火力の洋弓は花京院さんが使ってください。というかとても素人には扱えないものだから必然的に花京院さんしか選択肢はないんだけど」


花京院さんのアーチェリーの実力は、あまりしられてないが世界大会に出場できるレベルである。さらに彼女はクレー射撃のたしなみもあり、動く的への対応力も高い。実戦経験があるわけでないけど、能力的にはかなりのポテンシャルがあるのは間違いなかった。


「バットかよ、こんなのであの怪物に通用するのかよ」

「俺は十分だぜ、バットスイングには自信がある。必ず怪物の頭をぶち壊してやる」


「いや、二人にはバットで牽制して、怪物を近づけないようにしてくれるだけで十分だよ。倒すのは花京院さんの洋弓がメインになると思う」

「まあ、確かにそっちの方が威力はあるか」


しかし、戦闘に関しては実戦経験があるわけではないので、正直心配ではあった。なので、極力戦うのは最終手段として考えなくてはいけない。この怪物が跋扈する暗闇の世界、油断だけは絶対にしてはいけなかった。



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