第7話 日常のルール
食料は朝と夜、少量が配られる。先の事を考えて量はかなり少ない。飲料水も限りがあるので、一人二日で500mlペットボトル一本と十分な量ではなかった。
水についてはトイレ事情にも影響していた。校内の水道は貯水タンクに一度貯めて使用する仕組みだったこともあり、水洗トイレを使用することはできた。しかし、タンクに水を補充する術はなく使えば減るだけなので、使用回数を制限する必要があった。
小さい方は基本は流さないで、数日に一度、一斉に少量の水で洗浄するだけと決まった。大きな方は衛生的にも流さないわけにもいかないので、流すタンクの水を少なくして、さらに一人一日一回までと回数を制限した。それでもお腹の調子の悪い者の救済処置として、申告すれば使用回数とは別にトイレを使用できる制度も作られた。
生活で一番辛いのは寝床だった。布団どころか毛布すら人数分はなく、制服の上着などをかけて自分の机の下で丸まって寝るのは本当に辛い。幸い気温は平均15℃くらいはあるので、寒さで死ぬという事態までにはならないが、十分な睡眠が取れている人間は一部だろう。
「桜宮、天野、生徒会長が呼んでるぞ」
もう生徒会の一員になったかのように当たり前に呼び出しされるようになった。このような状況なので、断ることもできず、呼び出しには応じるしかなかった。
「水、食料、燃料、この三つを確保する為に、校外へと探索へでるのは必須だと思う。そこで君の意見を聞きたいんだけど」
生徒会長は前置きなく要件を聞いてきた。
「まずはあの未知のモンスターに対抗する為に武器と明かりを用意しないとダメでしょう。武器は弓道部の和弓とかアーチェリー部の洋弓などを使用するのはどうでしょうか、矢じりを変えれば実践的な武器として使用できると思います。明かりは実験室にあるアルコールなどを使って簡易的なランタンを作ればよいでしょう。どちらも大量に用意できるものじゃないので、探索隊は厳選した少数精鋭で臨むべきですね」
「さすがは回答が早いね、僕も同じ意見だ。探索隊は運動部などから志願制で50名ほど募集しようと考えている。それを五名一組に分けて、探索に出てもらおうと思っているのだけど、それとは別に桜宮くんには生徒会班のリーダーとして参加してもらいたいと考えているのだけど、どうかな」
「俺が生徒会班のリーダーですか!? 自分なんかより他に適任はいると思いますが……」
「いや、君以上の人材はいない。生徒会班のメンバーは君が全て決めていいのでお願いできないだろうか」
「人選まで丸投げするんですか!?」
「君は人を見る目があるからね。すでに頭の中では何人か心当たりがいるんじゃないかい?」
悔しいが生徒会長の言うように、メンバーを俺が決めていいと聞いた時、何人かの人物の顔が浮かんだ。しかし、それとこれとは話が違う、すぐに正論で言い返した。
「では言わしてもらいますが俺にメリットがありません。責任と重労働に対する対価が釣り合わない」
「確かにメリットはないけど、今の極限状態ではプラスを考えるより、いかにマイナスを犯さないかが重要じゃないかな。助けがくるかこないかわかないこの状況では、探索隊がいかに重要になるか君になら理解していると思うけど、そんな重要なタスクを人任せにできるほど無責任にはなれないんじゃないかい」
本当にこの人にはかなわない。選抜される探索隊を信用できないわけではないけど、やはり校舎の外の状況を、自分の目で見て把握したいと思っているのが本音だ。生徒会長の思惑通りになるのは不本意ではあるけど、やはりこの提案を断るには自分の生存確率を上げることも考えると難しい。
「わかりました。それでは人選もそうですけど、探索時の判断の自由も頂いてよろしいですか」
「もちろん、その辺りも君に全て一任するよ」
こうして、生徒会直属の探索隊を俺が率いることになってしまった。まあ、どっちにしろこのような状況で、自分の為にも何もしないわけにはいかない。不可解なこの状況を少しでも理解する必要があるし、元の生活へと戻る為に行動しなければいけなかった。
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