第6話 保健室の生存者

俺はあることが気になり、嫌々ながら生首をもう一度確認する。やっぱり、先生全員分の生首が並んでいるわけではない。ということは生き残りがいるかもしれない、俺は生徒会長にこう提案した。


「生徒会長、もしかしたら生き残りがいるかもしれません、保健室の方を確認してはどうでしょうか」

「そうだね、それがいい。それでは桜宮くんと、後、天野さん、それと京香、一緒に来てくれ」


京香とは生徒会長といつも一緒にいる生徒会副会長のことだ。無口で目立たないけど、かなりの才女だと話は聞いている。


俺たちは職員室のもう一つの扉から廊下に出る。そこも瓦礫があり保健室の扉を塞いでいたけど、量は多くなく、すぐに撤去できた。


「桜宮くん、扉をあけてくれるか」


生徒会長の指示に従い俺は扉をゆっくりと開く。会長は開いた中を慎重に覗き込んだ。その瞬間、中から少し震える声がした。


「だ、誰だ……人か!?」

「生徒会長の日恵野です、皆さん無事ですか」

「おぉ~日恵野か! おい、助かったぞ!」


暗がりだが声で誰かわかった。おそらく全生徒が生き残ったことを喜ばない人物、体育教師の加苅大樹だ。傲慢で自分勝手、絵にかいたようなパワハラ教師だ。生首になっていなかったので、生き残っているとは思ったが、こうして生存が確定すると微妙な気持ちにはなる。


保健室にいたのは加苅の他に、保健師の荒川風香先生、それと教頭の牟呂の三人だった。


「すまない、とにかく、まずは水をくれ! のどが渇いて死にそうだ」

教頭の牟呂は保健室から這い出るように出てくるとそう懇願してくる。そんな状況を想定していたのかどうかわからないけど、会長は500mlのペットボトルの水を用意していた。それを牟呂に手渡した。


牟呂は見苦しいくらい必死にペットボトルの蓋をあけると、息苦しい感じで水を飲んだ。


「先生、職員室で何があったんですか」

「はぁ、ふぅ~ ……わ、わからん、ワシは気分が悪くなったので、加苅くんに保健室に連れていってもらったんだが、その後は真っ暗になって、何が何やら……扉はなぜか開かなくなるわ、外にでようにも窓も土かなにかで埋まってしまったしな」


予想はしていたけど、閉じ込められた三人からは有力な情報を得ることはなかった。いやそれより状況は悪くなったと直感的に感じた。これまで生徒会長が上に立つことで意思決定がスムーズに運ぶ状況にあったけど、教頭の登場でそれがブレる可能性がでてきた。俺の正直な評価では、教頭はお世辞にも優秀な人間とは言えない。そんな人物が立場的にトップなってしまうのは危険であった。



安全を確保する為のバリケード、水、食料などの備蓄確認、職員室の解放など、近々のミッションは達成した。生存者の人数も正確に把握でき、俺たちが生き残れるリアルな数値が算出される。


「物資は、何もしなければ一か月も持たない。さらに自家発電している燃料はそれより先に尽きる。早急に手を考えなければいけないのだけど、何か案のある人はいるかな」


生徒会長の言葉に、教頭の牟呂がすぐにとんでもない意見を言ってきた。

「役に立たない重症の生徒は楽にしてやったらどうじゃ? 結構な人数がいるのだろ? 怪我人でも水は飲むし飯は食うしな。そんな無駄は省くべきではないのか」


教育者とは思えない非道な案に、生徒会長がすぐに反論した。

「怪我人も回復すれば立派な人手となります。これから先の事を考えればまだ見捨てる段階にはないと思います」

「ふんっ、そんな悠長な事を言っていては助かる者も助からんぞ! 弱者は切り捨てりゃいい。救助がくるまで持ちこたえればいいのだから、そんな先の事まで考える必要はないじゃろ!」


果たして救助なんてくるのだろうか、訳も分からない現状に、外からの助けなんて期待するのは間違っていると思う。会長も俺と同意見のようでこう言い切った。


「来るかどうかわからない救助を待つより、自分たちだけで現状をどう乗り越えるか考える方が安全です。それにもし助かって地上に戻れた時、怪我人を見捨てたと世間が知ったらどうしますか? 一番に責められるのは立場的に牟呂教頭だと思いますがよろしいのですか?」


自分は責任を取りたくないと考えていたようで、牟呂はそれで押し黙った。なんとも無責任な発言をする奴である。

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