第2話 安全の確保
校内中から聞こえる悲鳴に恐怖して誰も動けない。さっきまで威勢の良かった東雲はどこかで震えているのか、騒ぐ声すら聞こえてこなかった。
なんにしろ、このままでは自分の身にも危険が及ぶ。取り急ぎ、この状況から抜け出さないといけないが、周りがこうもパニックではやりにくい、仕方ないのでヒントを与えてやる。
「この学校は地域の緊急避難所指定されていたはずだ。だったら非常用の発電機くらいあるんじゃないか? 電気が回復すれば校内に明かりが付くし、あの怪物も逃げるはずだ」
校内に非常用の発電機があるのは知っていた。不確定な言い方をしたのはなるべく目立たないようにと配慮したのだが、暗がりで、さらに混乱しているのか俺が言ったとは気が付いてないようだった。その証拠にカースト最下位の意見とはしらず、議論は進む。
「そうか、非常用の発電機だ!! 確か地下室にあったはずだぞ!」
「ちょっと待てよ、地下室にあるったって、そこまで誰がいくんだよ、俺は嫌だぞ!」
「今頃、先生たちが向かってるんじゃないのか? ちょっと待てば電気が回復すると思うんだけどな」
自分がしなくても誰かがやってくれるとあてにし、ポジティブというよりご都合主義の塊のような考えはいつか身を亡ぼす。率先して動けとまでは言わないが、誰も動かないようなら自分が、という最低限の行動力は持つべきだと俺は考える。
「わかった。場所を知っているので俺が行ってくる。すまないが、少しの明かりは欲しいので1~2人、付いてきてくれないか?」
俺は仕方なくそう提案したが、みんな怖いのか誰も立候補してくる気配がなかった。諦めて一人で行こうと覚悟を決めた時、か細い声で立候補する者がいた。
「あ……あの……私が一緒にいきます……」
それは俺と同じクラスのカーストで下位にいる、
それにしても協調性の無い彼女が、立候補したのは意外だった。確かに俺の見立てでも、腹黒いクラスメイトが多い中では珍しく裏表のない善人という認識ではあるが、善意とわかっていても、その性格から積極的な行動をするタイプではないはずだが……。
「ありがとう、天野さん」
純粋に助かると思ったこともあり礼を言う。
「ううん、一人じゃ危ないし、明かりがつけばみんな助かるから……」
本音で言っているのがわかるだけに嬉しい気持ちになる。こんな子ばかりなら俺も心を閉ざす必要がないのに……。
この辺りのやり取りで、提案者が俺だと気づかれてしまった。俺を嫌い、下に見ている東雲が黙っているわけもなく余計な一言を言ってきた。
「なんだ、偉そうに言ってんのは桜宮かよ。クソ人間らしく黙ってりゃいいのにカッコつけてんじゃねえよ」
ならばお前がいけばいいだろうとは思ったが、こんな馬鹿に正論を言っても通じない。無視して俺は教室を出た。
俺はスマホで前を照らし、天野には周りを照らしてもらいながら地下室へと向かう。他のクラスでもあの生物に襲撃されているようで、校内中、叫び声や怒声が飛び交い騒がしい。他のクラスを助ける為にも地下室へと急いだ。
なんとかあの怪物に襲われることもなく地下室へと到着した。しかし、最悪なことに地下室の扉には鍵がかかっていた。
「非常用の電源があるのに鍵なんかかけて何考えてるんだよ」
「どうしよう、鍵はたぶん職員室だよ」
ここから職員室まではそれほど離れていない。鍵を取りに行くかと考えながら周りを見渡していると、廊下に設置されている消火器が目に入った。あれで叩けば鍵を壊すことができるかもしれない。そう考え、消火器を手にした。
「天野さん、ちょっと下がっていて」
しっかりと天野さんが後ろに下がるのを確認すると、思いっきり消火器をドアノブに叩きつけた。一度目でグラグラするくらいにまでにすると、さらにもう一度、消火器を叩きつけてドアノブを破壊する。
鍵のなくなった地下室の扉は、少し押しただけで簡単に開いた。俺たちはようやく非常用の発電機を起動できると中に入ろうとした。だけど、それを止めるように後ろから声をかけられた。
「誰かいるのか?」
その声に反応して天野さんが声のする方へと明かりを向ける。明かりに照らされたのは三年のバッチを付けている二人の男女だった。どちらも知っている顔だ。生徒会長の
「あら、桜宮くんと天野さんね。二人とももしかして発電機を起動しにきたの?」
「あっ、はい」
「ふっ、混乱の中で発電機の存在に気が付くとは、やはり桜宮は優秀だな」
赤点ギリギリの点数しかとらない俺を優秀などと言うのはこの二人しかいない。しかも恐ろしいのはそれが本心なのか、何か裏の意図があるのか俺にも読めないところにあった。
「まあ、それより早く電気をつけて安全を確保しよう。発電機の使い方はわかるか?」
「はい、多分大丈夫です」
「それではそれは任せよう。その間、俺と京香は放送室に向かわせて貰う」
それを聞いて、生徒会長の意図をすぐ理解した。
「電気が回復したら、すぐに明かりをつけるように指示するんですね」
「あの怪物は明かりが苦手のようだからね、それで束の間の安全は確保できるだろう」
生徒会長たちが放送室に向かうのを見送ると、すぐに発電機の起動に取り掛かった。
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