第3話 希望の明かり
発電機に燃料となるガソリンを入れ、エンジンをかける。簡単な構造なので仕組みを理解して動かしているだけなのだが、天野さんは俺の出際の良さに感心する。
「桜宮くん、凄いね。どうしてそんな機械の動かし方わかるの?」
「前に本で読んだことがあるだけだよ、たまたま知っていただけ」
「たまたまでも凄いよ、桜宮くんって博学なんだね」
天野さんの反応は意外だった。本ばかり読んで他人に興味がないと思っていたけど、こういう普通の会話するんだと新たな発見をした。
エンジンが回り始め、大きな振動音を響かせ発電機が起動した。すると部屋にあったパネルが点灯して操作可能になったので、校内の全電源を非常用の電源に切り替える。
「天野さん、そこにスイッチがあるから電気をつけてみて」
「うん、わかった」
天野さんがスイッチを操作すると、地下室がパッと明るくなった。どうやら発電機は正常に動いているようだ。これであの怪物からの攻撃をしばらく防ぐことができるだろ。
通電したことがすぐにわかったのか、生徒会長たちの放送がはじまった。内容は電気が回復したので、明かりをつけること、怪物は明かりが苦手だということ、あと、状況の確認と、今後の行動を話し合う為にクラスから二名の代表が生徒会室へとくるようにと伝えていた。
この放送を聞いて一つの疑問が出た。どうして生徒会主導で話が進んでいるんだ? 普通に考えて、こんな状況になって、まず動くのは先生たちだろう。しかし、騒動の当初から先生が動いている様子はなかった。騒動時は先生たちは職員室で会議中だったことから一か所に集まっていたと予想される。もし、職員室で不測の事態が起こったとすれば……どちらにしろ先生たちに何かが起こっているのは間違いないだろ。
そんな事を考えていると、我が耳を疑うような内容が放送された。
「最後に、クラスの代表とは別に、二年六組の桜宮良太くんもこの話し合いに参加して欲しいので生徒会室へ来てください」
「嘘だろ、なぜ、俺を……」
校内放送でフルネームを呼ばれるなんて、こんな目立つような事は望んでいない。
「生徒会長さんたち、桜宮くんのこと信頼しているようだったから意見を聞きたいと思ったのかな」
「そんなに面識ないのにどうしてかな……まあ、放送までされて呼び出されたのに行かないわけにはいかないか……」
半ば諦めの気持ちで、俺は生徒会室に向かう。天野さんを一人で教室に帰らせるのもどうかと思ったので、一緒に生徒会室まで付いて来てくれるかと提案した。彼女は少し考えると、一人で行動する不安もあってか、それを了承してくれた。
校内は明かりが付けられたことで、あの化け物の活動が止まったようだ。あっちこっちで聞こえていた悲鳴などは収まり、不気味な静けさだけが残っていた。それと明るくなったことで惨状が丸見えとなり、今、この学校がどのような状況にあるか如実に表せていた。廊下には食い荒らされたいくつもの死体が転がり、人の臓物と血が廊下を見えなくするくらいに散乱していた。
俺は厳しい状況を目の当たりして、吐き気とめまいで倒れそうになる。それは天野さんも同じようで、険しい表情で口を押え、必死に何かを耐えていた。
「私たち、どうしてこんな目に……」
「理不尽だが、現実に起こっていることだ。今は自分が生き残る術を考えよう」
別に元気づける為に言ったわけではないけど、彼女は何か納得したように表情に生気を戻した。
生徒会の役員数人が待っていた。放送をしていた生徒会長と副会長はまだ戻ってないようだ。それにクラスの代表もまだきていない。おそらく明かりはついたが、まだ混乱が収まってないのもあり、代表を誰にするか決めるのに時間が掛かっているのだろう。
「君たちはどのクラスの代表ですか」
何かの書類を書き込みならがそう聞いてくる。
「いや、俺はクラスの代表ではなく、名指しで指名された桜宮です」
「あっ、会長が言っていた方ですね。分かりました、こちらにどうぞ」
そんな感じにやり取りしていると会長たちが戻って来た。二人は俺を見ると笑顔で握手を求めてくる。
「桜宮くん、来てくれて嬉しいよ」
「あんな放送されたら来ないわけにもいかないじゃないですか」
「それはそうだね、まあ、君の意見はどうしても聞きたかったから、少し強引に事を運ば差せて貰ったよ」
そう言って笑顔で言われると怒るに怒れない。
それから各クラスの代表が集まり始めた。そんな代表の中には制服が血だらけの者もいて、凄惨な現状を思い出される。さっきまでにこやかだった会長も真剣な表情になってそれを向かい入れていた。
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