いきなりダンジョンで俺の天賦の才がバレる

RYOMA

第1話 漆黒の闇は死を運ぶ

「なあ、友達だろ?」


ニコニコと親しく近づいてくる者の多くは何かしらの下心を隠している──


こちらが何かを与えると、上辺だけの感謝の言葉を対価に、さらに多くを要求してくる。友達だと関係を強調するが、裏では『ちょろい奴だ』と風潮して笑い者にした。


しかし、そんなすべての悪意を俺は見抜いていた。


俺は他人の心が見える。正確には隠している感情や考えが手に取るようにわかるだけだけど、そのせいで知らなくていい情報も入ってくる。もし、表の顔しかしらなければ、もっと他人を受け入れることができただろう。そんな望まない経験もあり、中学時代は一人の友人も作ることはなかった。悪意なく近寄ってくるクラスメイトもいたが、心の変化が怖くてそれすら受け入れることができなかった。


高校は良くも悪くも目立たないように普通の学校を選んだ。実はトップクラスの進学校にも合格する学力はあったが、そんな目立つことはしたくなかった。無難に目立たず過ごす、いつか、それが人生の最大のテーマとなっていた。


なるべく目立たないように生活していると、自然と中学時代の時と同じようにヒエラルキーは底辺へと位置づけられていった。クラスでの地位が低くみられるのは全然かまわないのだが、なかにはあからさまにマウントをとろうと嫌がらせをしてくる人間もいる。


そんな意地の悪い人物の代表格であるクラスメイトの東雲、その仲間の伊藤、田中の三人が、いつものように妙な自慢と俺に対する嫌味を、貴重な休み時間を使ってまでおこなってきた。


「桜宮~~この間のテスト、何点だったんだ?」

「45点」

答えるまでしつこく聞いてくるので素直に教える。赤点を取ると逆に目立ってしまうので、計算してギリギリのラインを狙ったうえでの点数だが、そんなことを知らない東雲はウンウンと嬉しそうに頷きながら自分の点数を公開してきた。


「赤点ギリギリじゃねえか、本当に馬鹿だよなお前、見てみろよ、俺は75点もとっちまったぜ。伊藤は62点だし、田中も58点で余裕の平均点ごえだぞ」


自慢できる点じゃないと思うが、本人たちは誇らしい点だと思っているのか自信満々である。東雲は、さらにマウントを取る為にテストの点とは関係のないことにまで話を広げる。


「それにしてもお前、この間の体育での体力測定も下の方だし何もできねえよな? 何か得意なものはねえのかよ。見てみたいよ、お前が人並みにできることをよ」


無視して本を読んでいたが、それが気に入らなかったようでその本を東雲が取り上げる。

「天界の方程式? なんだこれ? 何書いてるか俺にもわかんねえぞ。お前、こんな本読んで理解できてるのか?」


物理学の本で、ちゃんと理解もしているがそう答えても納得しないだろう。俺は東雲が納得するような回答をしてやる。

「カッコつけて読んでるふりをしてるだけ、意味なんてわからない」

「ハハハッ、そうだよな、お前にこんな本わかるわけねえよな。頭が悪いなりにカッコだけはつけたいってことだな、ほら、返してやるよ」


そう言いながら本を床に落とした。俺がそれを拾おうとすると伊藤が本を蹴って邪魔をする。さらに拾おうとすると今度は田中が蹴ってきた。

「いや~悪い悪い、足があたった」

「俺も足があたっただけだぜ」


そう言いながら三人はニタニタと嫌な笑い方をしながら俺を見る。もうすぐ休み時間も終わる。俺は本を拾うのをあきらめて、次の授業の準備を始めた。

「こいつ……なに生意気に無視してくれてんだ?」

「東雲、ムカつくから放課後、教育してやろうぜ」

「そうだな、ちゃんと教えてやらないとわからないみたいだな」


本当に面倒くさい奴らだ。ちょっとこらしてめやろうかと考え始めた時、それは起こった。グラっと何か違和感を感じた瞬間、目の前が真っ暗になった。いきなりの状況の変化に女子は悲鳴をあげ、男子もざわざわと騒ぎはじめた。


「きゃー!!」

「なんだ! 真っ暗だぞ! 何が起こったんだよ!」

「ちょっと誰か明かり付けて!」


真昼間で自然光で十分明るかったこともあり、教室の蛍光灯は付いてなかった。完全に外の日差しが無くなったことにより、手元も見えないくらいに視界を奪われていた。


このような状況は普通ではない。起こった事象だけを考えて状況を整理する。


いきなり視界が真っ暗になり見えなくなった。目や脳の病気の発症により視界を失うことはあるだろうが、クラス全員が同じ状況にあることからこの可能性は捨てていい。そうなると実際に陽の光が遮断されたと考えるしかないが、それで一番に思い浮かぶのは皆既食による太陽光の一時的な遮断だ。しかし、日食の予想の難しかった昔ならいざしらず、近年なら信頼できる予報がされる。今日、皆既日食が起こるとはどこの報道機関でもやっていなかった。やはり、その可能性も少ないと思われる。


だったらこの状況はなんだ? あらゆる事象を考えるが答えが見つからない。そうなると常識では考えられないようなことが起こっていると考えるのが普通だろう。ならばなんだ、常識では考えられないこと……たとえばこの校舎が太陽のない星へと飛ばされたりだとか、実は核戦争が起こり、みんな一瞬で死んでしまったとか、想像すればいくらでも思いつくが、なんの確証も無かった。


クラスメイトたちがあまりに騒ぐだけで具体的な解決案をあげることもなかったので、仕方なく声をあげる。


「騒ぐ前に、とにかく明かりをつけたらどうだ。スマホにもライト機能があるだろ」


そう指摘してやると、クラスメイトはそうだ、それがあったと、一斉にスマホで周りを照らし始めた。


「ダメだ、蛍光灯はつかないぞ」

「おい、どこの教室も明かりがついてないから電気が止まってるようだぞ」

「ちょっと、誰か職員室に先生を呼びに行ったら?」


スマホでわずかながら明かりが灯ったことで安心したのか、少し落ち着きがでたようだ。各々会話らしいやり取りができるようになった。


「うわっ!! みんな電波が無くなってるぞ!」

「嘘だろ……ほんとだ! 圏外だってよ」

圏外では電話で助けを呼ぶことができない。この現実に新しい不安が込み上がり、混乱が教室内に広がる。


「何が起こってるのよ!! 誰か説明して!!」


クラス女子のヒエラルキートップに君臨する三島陽葵みしまひまりがヒステリックに叫ぶ。こいつの声は嫌に頭に響くので嫌いだ。


「おい! 見てみろよ! ここはどこなんだ!?」


さらにベランダに出て外を確認していた大野木が声をあげる。それを聞いたクラスの何人かがベランダに飛び出す。そしてスマホで周りを照らしてみた。


「ちょっと待て、どうなってんだ!? まるで洞窟の中みたいだぞ!」

「洞窟ってなんだよ! 馬鹿なこと言ってんじゃねえよ!」


ライトで照らされた状況を見ると、確かにここは洞窟内である可能性が高いように思える。問題はどうして一瞬で校舎が洞窟の中に移動したかということだが、おそらく誰にも説明はできないだろう。


「あれ!? 何か動かなかったか?」


広田が何かに気付いたのが始まりだった。その時はあまり重要な言葉だとは誰も思わなかったが、次に続く一人の女子の悲鳴が一気に緊迫感をあげる。


「きゃあ~!!!」


その女子のスマホが照らす箇所を見ると、悲鳴の理由がわかった。明るく、サッカー部でも活躍していることから女子から人気のある田所に、今までみたこともないような生き物がしがみついていた。田所の首はすでに折れているのか、頭が不自然にだらんと垂れ下がっている。それを見たクラスメイトたちは恐怖で固まる。


さらに妙な声が聞こえるのに気が付く。耳を澄ませると、か細い声でこう訴えていた。


「痛い……痛いよ……お母さん……たすけ……」


声のする方をスマホで照らすと、美術部の女子、山内が倒れているのが見えた。しかし、見えたのは山内だけではなかった。山内の腹の部分にモソモソと動く何がか一緒にいた。よく見ると、山内の制服はビリビリと破け、肌が露出している。肌がでているだけならよかったが、山内はそれ以上に露出していた。皮膚も肉もむき出しになり、内臓が飛び出していた。チュルチュルと音がしていたが、それは腸を、あの見たこともない奇妙な生き物がすする音だった。


「うわぁあああああ~~!!!」


山内の惨状に気が付いた生徒たちが恐怖と嫌悪感でパニックになった。叫び、逃げ惑い大混乱が訪れる。


このままでは全員、あの生き物の餌になる。仕方なく、俺の観察力が見逃さなかったこの生き物の弱点をみんなに告げた。


「明かりだ!! こいつら明かりに弱い!! 壁を背にして前を照らすか、かたまって周りを照らして身を守れ!!」


ライトを向けると、嫌がる仕草をしていた。おそらく暗闇で生きてきたのか、明かりが苦手なのだろう。


俺の予想は正解だったようで、明かりを照らされた生き物は暗闇に向かって逃げていく。なんとかやり過ごせたようだ。しかし、悲鳴や叫び声はこのクラスだけではなく、学校中で続いていた。


今、校内は、あの生き物の大きな狩り場になっているようだった。

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