第4話 最強のライバルキャラ【エヴァSide】
初めて会ったとき、私は堕ちた。
――護らないと、じゃない。護りたい
強く、熱い衝動が胸を走った。
その狂おしいほどの熱を、私は生涯忘れることはないだろう。
その後、私はお姉様にべったりになった。寝るときも一緒。なにをするにも一緒。
私のわがままで、お姉様は原作のような扱いを家で受けることはなくなった。
(私がいるから、家庭問題でお姉様が苦しむことはない)
私以外の家族はお姉様をどう扱っていいか分かっていない。
しかし、彼らは原作でも手を差し伸べなかっただけで、虐待などをしていたわけではない。
それはすべてエヴァのやったことだ。助けなかっただけで同罪だが。
(お姉様の適性に関しても、なんとかできる)
魔法、剣技を習得したいお姉様を、私は原作の知識をフル使用でサポートした。
エヴァラスはクソゲーである。救いのない鬱ゲーである。
トゥルーエンドを迎えるために、周回プレイは必須だ。
条件を満たせば周回プレイで適性の一部を引き継げる。
まあ、私はゲームを5周しても裏ボスには勝てなかったのだが。
でも、この世界は一度きりだ。
初プレイでトゥルーエンドを迎えられるほど現実は、このゲームは甘くない。
お姉様を死なせないために、可能な限り、剣も魔法も強化する必要がある。
この世界には11種のステータスがあるが、それを全て強化はできない。
というよりも、全てを育成しきるだけの才能がお姉様にはない。
原作でも育成の基本は魔法属性1つ、武、速度の合計3つが基本中の基本だった。
お姉様にあるのは、たった一つを極めるという才能の方だから。
そしてウリアには実は適した適性がある。
それが光属性である。
それに加えて私も扱える剣。
それによる武の適性を組み合わせ、お姉様を超絶強化しようというのが作戦だ。
まあ、私と同じ武器を使ってほしいという願いもあるのだが。
適性がFの場合、育成は困難だ。
FからEに上げるのには恐ろしいほどの経験値が必要となる。
この世界においては、それは時間であり、そして効率でもあるだろう。
しかし、今回は大きなメリットが2つあった。
まず1つは時間だ。お姉様が学園に入るまでの7年が育成に使える。
これは学園編の2倍以上の時間で、原作では1周程度のアドバンテージとなる。
そして2点目。これが一番大事なのだが、私が教えられるということだ。
自慢ではないが、私は誰よりもこの世界に詳しい。
どのように魔法を使うのか、どのように剣を振るうのか、それを誰よりも知っている。
ゲームの知識をフル動員して、ウリアを効率的に強化できる。
(前世の私と今の私、その2つの知識なら圧倒的に強くできる)
――私の持つすべてを、お姉様に。
おかげでお姉様は少しづつだが魔法を使えるようになり始めた。
事実、目の前のお姉様の手のひらには小さな光の球体が。
そこから溢れる光は弱弱しいものの、お姉様のあどけない表情を照らしている。
お姉様の蒼の瞳に、白い光が映り、思わず見とれてしまうほどだ。
2年で進捗がこれだと、微妙と思うかもしれない。
しかし、適性Fをなめてはいけない。
CからBに上げるのと、FからEに上げるのでは、後者の方が何倍も辛いのだ。
むしろお姉様はよくここまで弱音を吐かずにやっていると思う。
(今のところ順調……でも、不安もたくさんある)
まずは、他のライバルキャラをなんとかしなくてはならない。
皇国の皇女ローズ、エルフの姫ムース、月狼族の族長の娘ルナ、天才技師ミスト。
彼女達は間違いなく学園で邪魔をしてくる。
その邪魔に耐えられるように、お姉様には強くなってもらわないと。
「エヴァ!見て!ついに治癒魔法を発動できたよ!……えへへ、っていっても一番簡単なやつだけどね」
「すごいよお姉様!この調子で行けば世界一になれるよ!」
私が導かないといけない。
何も知らないお姉様を、トゥルーエンドの先の、原作には存在しないハッピーエンドへと。
胸の高まりを押さえつつ、私は強く決心した。
8歳になると招待されるエディンバラ皇国の懇親パーティ。
原作でもあったが、過去の話なので文字で表示されるだけだ。
このパーティにはエヴァのみが招待され、ウリアは呼ばれてすらいない。
だが、私としてはお姉様の居ないパーティに参加する意味などない。
ただアルトリウス家としては参加しないという選択肢はないようで。
仕方なく私はお姉様が参加するという条件で参加を決めた。
パーティ会場ではお姉様が軽蔑の視線にさらされることもあった。
けれども、私はそれをにらみ返すことで、お姉様を守ってきた。
やがてパーティが始まり、ガイウス王が挨拶をする。
「紹介しよう。まずは私の息子、アーク・フォン・エディンバラだ」
そしてその後に紹介されたのが、エヴァラスの攻略対象の一人であるアークだ。
アーク・フォン・エディンバラ。
エディンバラ皇国の皇子。
しかし、彼は自分に自信がなく、出来損ないの皇子とも裏では呼ばれている。
そんな彼の傷を癒し、共に成長していくルートは人気だ。
ウリアとアークで似ている部分がある、というのも理由だろう。
(でも、今回は彼にお姉様を近づける気はないけどね)
前も話したように、エヴァラスはクソゲーだ。
難易度調整に失敗している。
普通にプレイした場合、お姉様は命を落とす。
実はストーリーにおいて攻略対象が必須な要素はなく、最善を目指すならば関わらない方がいい。
「そして次に……こちらはみな知っているだろう。ロゼリア・フォン・エディンバラだ。ローズと皆は呼ぶように」
エヴァラスにおける味方サイド最強キャラはだれか。
ゲームをプレイした人達に聞けば必ず返ってくるのが、ローズである。
エヴァラスは学園編、卒業後編と大きく2つに分かれており、卒業後編では世界各国で戦争が起こる。
それゆえに各国の最強戦力と肩を並べて戦うこともあるのだが、それを考慮してもローズがあげられる。
ローズとは学園編で出会い、一度だけ戦闘をする機会が与えられる。
というよりも、どの攻略対象を選んだかで、特定のライバルキャラと一度だけ戦闘をする。
アークルートならばローズ、グラムルートならば、私。
ソラスルートならば妹であるムース、ラークルートならば従妹のルナ。
そしてハインズルートならば彼のライバルであるミストだ。
もちろんウリアは最低ステータスなので、どのライバルキャラにも勝つことはできない。
いわゆる負けイベントというものである。
ただし、こう言った負けイベントは周回プレイなどで実力を伸ばし、倒すのも一興だ。
それゆえに3周目、4周目でライバルキャラにギリギリ勝利を収めるプレイヤーも出てきた。
とはいえ戦闘に勝利してもシナリオ的にはほぼ敗北のような内容で進んでしまうのだが。
さて、このイベントは負けイベントであるが、ライバルキャラのステータスは異なっている。
イベント前までにウリアを極限まで育成することで、その違いをダメージから計測した人もネット上では話題になった。
その人は2桁を越える周回数で極限まで強化したウリアでライバルキャラのデータを集めていた。
各種ライバルキャラの内、ムースとミストを倒し、ルナをあと一歩まで追いつめていた。
その証拠画像が掲載されたときは、私も目を見開いたものだ。
その人いわく
『ライバルキャラの強さは特殊なミストを除けば、ムース<ルナ<<エヴァ<越えられない壁<ローズ。というか、ローズは多分何しても勝てない』
今でも覚えている。残りHPが尽きかけているルナの画像。
その下に置かれた、残りHPが3割のエヴァの画像。
もう少しで勝てそうなそれらの画像。
それらの最後に添付された一枚のスクリーンショット。
地面に倒れ伏すウリア。それを冷たい目で見るローズ。
そのHPは、8割以上残っていた。
コメントで「越えられない壁」を使うのも仕方ないだろう。
他プレイヤーがチートを使用して計測した際には、ゲーム終盤の中ボスにも迫る強さとのことだった。
そんなローズは緊張した様子もなく、優雅にほほ笑んでいる。
ゲームにおける彼女の性格は、まさに冷酷な独裁者だ。
身分ではなく実力を重視し、力のないものは必要ないとまで考える徹底的な現実主義者。
低ステータスなウリアはもちろんのこと、自分の弟であるアークでさえ彼女は認めていなかった。
そんな一番の障害になると考えている彼女が参加するパーティにお姉様を連れてきたのには理由がある。
今の段階のお姉様と、学園入学時のお姉様を比べてもらい、評価を改めてもらうためだ。
興味を持たれる可能性もあるが、毛嫌いされて邪魔されるよりはよっぽどいい。
そのくらい学園でのお姉様さまの育成は大事だからだ。
一番は、他の生徒と同じだと断定してもらい、興味をなくしてもらうことなのだが……。
「さて、あとは子供たちは子供たちで、私たちは私たちで楽しむとしよう。向こうの会場に行くがいい」
ガイウス王の言葉で現実に戻された私は、隣に立つお姉様を見た。
お姉様はガイウス王が示した別室の様子が気になっているようだ。
その手をそっと握ると、お姉様は嬉しそうに微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます