病的恋愛症

第8話

夏休みに入ってから、由奈とは会うことはおろか、メッセージのやり取りすらも減っていた。

午前中は忙しいんだろうと思って夜に会いたいと言っても、疲れてるから、と一掃されるだけだった。

時折由奈の部屋の電気が着くのを見るに、ここら辺にはいるのだろうが、姿を見ることはなかった。

８月に入り少し経った頃、由奈から久しぶりのメッセージが届いた。

「今夜来れる？」

単調なメッセージだったが、久しぶりのことなので心が跳ねた。

その日の夜、久しぶりに由奈と対面した。

由奈の顔にはうっすらとクマが浮かんでいたが、それ以外はいつも通りの由奈だった。

「久しぶり、7月中は忙しかったの？」

単純な疑問だった。

7月中由奈は何をしていたのか気になった。

「色々あってね、その話もしたいからブランコのとこいこ？」

久しぶりにきた小さな公園は、やっぱり何も変わっていない、いつもの公園で、驚くほど静かだった。

「京人、これやろ？」

そう言う由奈の手には手持ち花火のセットが握られていた。

そういえば、由奈は今日スーパーの袋を持っていたけれど、その中身は手持ち花火だったらしい。

「この公園花火禁止なんじゃなかった？」

「ちゃんと後処理したら誰も気づかないよ」

そう言って由奈は線香花火を僕に手渡した。

線香花火はパチパチと火花を散らしながら美しく輝いていた。

由奈の瞳も花火の光が反射して輝いて見えた。

辺りが真っ暗の中、花火の光だけが由奈を照らしていて、より由奈が美しく見えた。

「由奈は7月中何をしていたの？」

「そんなに気になるの？」

「だって、夏休み入ってから今まで一度も会えなかったから」

「大丈夫、浮気とかはしてないよ」

「それは分かってるけど」

「じゃあ私が話したくなるまで待って？」

「ごめん」

花火は数十分としない内に消えてしまった。

湿っぽい空気に花火はあわなかったのかもしれない。

「そんな心配しなくても私の頭は京人でいっぱいだよ」

その瞬間また僕の心の中で何かが動いた。

告白された時の様な、何かを感じた。

「やっぱり、由奈は僕の天使だよ」

「死後の世界に連れ込むってこと？」

「違うよ、何それ怖い」

「冗談だよ、ちゃんと言いたいことは分かってるよ」

由奈はそう言って笑った。

僕と由奈は花火を燃やし尽くして、ブランコに座っていた。

「京人はなんで私のことを好きになったの？」

そういえばなんでだろう、確かに僕は小学生の頃から由奈のことが大好きだけど、それがなぜだったか、明確に覚えていない。

「由奈だけだったからかもしれない」

自然と口をついて出た言葉だった。

「由奈だけが隣にいたんだよ、ずっとそうだったんだよ。

由奈だけが僕と一緒にいてくれていたから」

そうだ、そうだった。由奈は荒木にいじめを受けていた時も唯一、僕と普通に接してくれていた人だった。

「ふーん、そうなんだ」

由奈は満足そうな顔をして僕を見つめている。

「由奈はどうして僕を好きになったの？」

僕がこれだけ恥ずかしいことを言ったのだから由奈の理由も聞いてみたかった。

由奈は少し空を仰いで考えた後言った。

「ひみつ」