病的恋愛症

第7話

次の日、僕はいつもの様に由奈の部屋に居た。

唯一いつもと違うところがあるとするなら由奈が机に向かって書き物をしているところだ。

由奈は今度人権週間スピーチというものをすることとなっていた。

生徒会長が毎年押し付けられる面倒事だと副会長の先輩とその彼女さんが話していた。

「明日だっけ、スピーチ」

「うん、だけどもーやめたー！疲れたー！」

そう言って由奈は僕の元に飛び込んできた。

「お疲れ様」

本当はここで書き終わらせるように言わないといけないのかもしれないが、こんなかわいい様子を見せられてそんな酷なこと言えない。

「私ね、いじめの傍観者も加害者の一人だと思うの」

僕に抱きついたままの由奈がそう言った。

「ただ、こんなこと掃いて捨てるほどの人が言ってるでしょ、

それなのにいじめは無くならないんだよ」

由奈の表情はいつになく真剣だった。

「私、京人のことがあってからずっとそのことを考えているの。

あのとき、どうしてあそこまでエスカレートしたいじめを、私も含めて、誰も止めようとしなかったのか。

それはね、エスカレートした事実を誰も知らなかったから、それと、エスカレートすることを知らなかったからだと思うの。

確かに、いじめで自殺する人はいる。

ただ、それは間接的な他殺であって、直接的に殺した感覚がないからだと思うの。

だから、私はいじめによる直接的な死を、気づかせてあげたい」

僕はこの時、正直何を言っているのかよくわからなかった。

だから僕はただ、由奈の頭を撫でることしか出来なかった。

次の日の由奈のスピーチは完璧だった。

でも、内容としては、単なるいじめによる心の被害とか、悪いのは加害者だけでは無いとか、そういう模範的なもので、昨日の様な話はなかった。

その日の帰り道、夏休みが直前まで近づいてきている中でも、僕たちの帰路は静かで、並木の葉は鮮やかな青緑だった。

「由奈は夏休み何か予定があるの？」

「ん〜、7月は忙しいんだけど、8月中旬くらいからなんにもないよ〜」

「そっか、じゃあどこか遊びに行こうよ」

その時、微妙にだけれど、由奈の表情が変わった気がした。

「うん、行きたい」

その時の僕はそんなこと大して気にはしなかった。

もうすぐ夏休みが始まる。

僕と由奈の物語はもうすぐ終わりを迎える。

でも、ここからが本番なんだ。