第6話
僕は今日、珍しく夢を見た。
夢の中には荒木涼介が出てきて、僕に対してこう言い放った。
「お前のせいだ、お前が悪い」
朝のあの悪夢とは打って変わって、今日は一日何もない日だった。
強いて言うならば、僕のテストの点数が悪かったくらいだ。
「大丈夫?今日はいつにも増して集中力なかったね」
由奈が心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
「…それ、遠回しにいつもないって言ってる?」
僕は由奈の部屋で、そんな他愛もない会話をしていた。
最近では、毎日のように由奈の部屋に寄って、夜中には公園のブランコでおしゃべりをして、お世辞にも健全な男子高校とは言えない生活をしていた。
「…夢にあいつが出てきてさ、今日一日中気分が悪くて」
由奈は哀しそうな顔で、ぼくの額を撫でた。
「それは…嫌だね」
由奈は僕に抱きついてきた。
由奈にとっても嫌な記憶なはずだ。
「ねえ京人、あれからどのくらい経った?」
「えっと、もう5、6年くらいかな」
「もうそんなに」
「ちょうど今くらいの季節だったよね」
「うん」
由奈の心に残る傷は何が原因なのだろうか。
「ねえ、由奈、あれは由奈が悪くないんだよ、僕が悪いんだ。この火傷痕もそうだよ。だからそんなに由奈が思い詰めることないよ」
「京人、その話もうやめて」
「うん」
そのまま僕らは、いつも通りに戻って、いつも通りにキスをして僕は帰った。
これは忌まわしい小学生の頃の話だ。
「おい京人、今日裏山までこいよ」
ある日の昼休みだったか、
僕が断ろうとすると荒木は僕を殴った。
「お前に断る権利なんてねーんだよ」
「……わかった…」
その日の放課後、僕は重たい足取りで裏山に向かった。
僕が住んでいる街には大きい裏山がある。
有名な小説家が持っている山だと言うが、特徴と言ったら、なぜか普通の木々に混ざって一本だけ生えている林檎の木と、その木の隣に墓石が並んでいるというだけの山だった。
「お、来たな」
丁寧にも荒木は裏山の入り口に仁王立ちで僕のことを待っていた。
「行くぞ、いい所みつけたんだよ」
なんでこいつは僕のことをいじめるのだろう。
最初は数人のグループで虐めていた。
でも、みんな飽き始めて今では荒木だけが僕をいじめている状況だ。
「おい、ここに立てってろ」
そこは切り立った崖で、落ちたらきっとひとたまりもないだろう。
「落ちんなよ」
そう言って荒木は僕を殴った。
僕は殴り飛ばされ、あと数センチで落ちるというところに倒れ込んだ。
「……ひっ」
自分でも情けない様な声が口から漏れた。
その様子を見て荒木は笑っていた。
続けて荒木は倒れ込む僕を蹴り始めた。
僕は必死に落ちない様にしながらうずくまった。
「お父ちゃんもいない様なお前は死んだっていいだろ!」
荒木は笑いながらそう言い、僕を蹴り続けた。
少しずつ僕の体は崖に近づいていく。
少し体が崖からはみ出した。
「なにやってるの!」
僕の意識が遠退きかけていた時だった。
それは由奈の声だった。
最悪なタイミングだ、こんな情けない姿を見ないでくれ…
「なんで大塚が…」
「京人から離れて!」
当時の僕は何が起きているのか分からなかったが、荒木の怯えた様な声が聞こえた後、崖の下から聞いたことがない様な音が聞こえた。
「どうしたの?大丈夫?」
僕は由奈の言葉で我に帰った。
「うん、ちょっと考え事してた」
「もしかしてまたあのこと…?」
由奈の表情が変わり始めている。
「違うよ、違う事」
由奈はブランコを漕ぐのを辞めて僕に近づいてきた。
「京人は私の事だけ考えていて」
それは呪いの言葉だった。
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