第115話 戦慄!魔人の恐怖

魔人は悪魔族の中でも最上位に数えられる種族だ。

人族と同じような姿をしている者も多く、他の魔族に比べ小柄で外見上弱々しく見える。

しかし体内に含まれる魔力量は、全種族中トップクラス。

他の種族の追随を一切許さない。


もちろん魔力だけではない。

知能も驚くほど高く、闘いの場でも相手を貶めるための様々な策を用いる。

単純な力もサイクロプスを遥かに凌駕し、防御力はドラゴン並なのだ。

本来は7階層にいる相手ではない。

この場にいること自体がありえないのだ。


僕たちが入り口に到着すると、魔神はすでに目と鼻の距離にいた。

見た目は15歳くらいの少年のようだ。

全身黒い鎧を覆っており、兜は無く長髪を後ろで結んでいる。

ダークグレーの肌の中で光るグリーンの角膜。

角膜を囲む赤い強膜がその不気味さを高めていた。

手にしているのは体には似つかわしくない位の大きな大剣。

その攻撃力の高さが伺える。


しかし、最も驚異的なのは彼を取り巻く黒いオーラだ。

体内に秘められた魔力量を隠そうともせず、体内から漏れ出している。


魔人はまるで散歩でもするかのごとく、真っすぐ、ゆっくりと最西端の部屋に向かって歩いていた。


「行けぇ、お前ら!」

キングの号令で、30匹ものリザードマンが魔人に襲いかかった。

ただ漫然と襲いかかるわけではない。

前衛10名が盾を構えたまま突撃し、ヤリ隊が続いた。

後衛の弓隊と魔法隊が後方から遠距離攻撃を時間差で行い、その後方で部隊長が指示を送っている。


斬!


音と共にリザードマン30匹が、全て真っ二つに切断された。

魔人は特別何かをしたわけでもない。

ただ、剣を横に振っただけ。

たったそれだけの攻撃で、30匹のリザードマンは絶命したのだ。

一体どうやって?


魔人の歩みは止まらない。


「奴は1人だ。囲んでしまえ!」

キングの号令とともに、魔人の周りをリザードマンの集団が囲む。

逃げ場のないようにぐるりと一定の距離を保ちながら2層で囲み、一列目は全員盾を構えた。

防御重視の囲みであるが、後列が配置されていることによって中の敵に攻撃を仕掛けられる。

敵を逃がさずに攻撃をする堅実な囲み方だ。


しかし魔人はまるで障害物がないかのように、一切の歩みを止めることはなかった。


そして一振り。


魔人はその場の空を切るとと同時に、構えた盾ごと1層目・2層目の兵士全てを切り裂いたのだ。

ゴトンと音を立て、リザードマンの胴体から上半身が地面に落下する。

破壊力のある攻撃には到底見えない。

ただその場で剣を振っただけ。

たったそれだけの行動で、次々とリザードマンの数を減らしていったのだ。


「う、打てぃ、打てぇ!」

キングの号令とともに何十、何百もの矢や槍などが一斉に魔人に降り注いだ。


全く避けようともせず、前進を続ける魔人。

矢が刺さり、槍が鎧を貫こうとも同じペースで歩き続けた。

飛び道具の一斉放射が止まった瞬間に、リザードマンの精兵たちが突撃する。

そのすべてが急所狙い、緩急をつけながら魔人に斬りつけたのだ。

それに合わせて剣を振るう魔人。

しかし、リザードマンたちの攻撃の方が遥かに速かった。


斬!


それでも先に地面に転がったのはリザードマンたちの頭。

先に攻撃した精兵たちの攻撃は、全く届いてもいなかったのだ。


さすがのキングも指示を忘れ、魔人に見入っている。

一体何がどうなっているのかが分からないようだ。


歩みを止めない魔人。


さすがにこれ以上接近されたら、僕たちにとってもまずい。

怯えるキングたちを置いて、僕らが先に介入した。


うさぴょんが【岩石】のスキルを使用するまでの間、僕とタケルは【重力操作】を魔人に向けて発動した。


重力の壁が上から魔人を押さえつける。

上からの強い圧力を受けて、魔人の足元の床が崩れ始める。

若干スローになったものの、魔人の歩みは止まらない。


ナースは、僕たちに【スキル強化】を使用し、僕たちのスキル効果を倍増させたのだ。

より強烈な重力操作が魔人の体を襲う。

魔人の歩みは止まり、その場で行動を停止した。


(いっけぇ!)

十分な溜めが終わったうさぴょんの【岩石】スキルが発動。

動きを止めた魔人にありったけの岩石が襲いかかった。

全弾直撃!

辺り一面に砂煙が舞う。

さらに僕らはありったけの飛び道具を、煙の中心に向けて打ち込んだのだ。


煙が腫れて人影が現れる。

さすがにダメージを受けたのか、人影はふらふらと体を揺らしていた。

これなら戦える。僕らの攻撃は魔人にも通用するのだ。

僕らは一連の攻撃に手応えを感じていた。


しかし煙が腫れて現れたのは、瀕死状態となったリザードマン首領キングの姿だった。

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