第39話 人造モンスター

現れたモンスターはすでに十分なダメージを受けていた。

僕に襲いかかると思いきや、ダンジョンの壁に何度も頭を叩きつけ始めた。

額から褐色の血が吹き出し、苦しそうにうめきながらも自虐的行為を止める様子は無かった。


助走をとり、頭から壁に突進する。


ダンジョンが揺れる程の衝撃と炸裂音!

壁に突進したモンスターも、大きく後方に跳ね飛ばされた。


顔が見えなくなるほど激しく流血をし続けながらも、モンスターは再度立ち上がって壁に向かって突進した。

激しい炸裂音がダンジョン中に響き渡る。

壁に大きな亀裂が入り、壁の表面がポロポロと剥がれ落ちた。


激しく吹き飛ばされるモンスターだったが、意に介する様子は全く無い。

何度倒れても、壁に向かって強烈な突進を繰り返した。


この光景は異常過ぎる。

おそらく誰かに操られているに違いない。

自殺を指示しているのだろうが、このモンスターの生命力は予期できなかったのかも知れない。

ドーン、ガラガラガラ

何度目の突進だろうか、なんとダンジョンの壁の方が音を立てて崩れてしまった。


・・・!?

ダンジョンの壁って壊れるんだ…!


それでもこのモンスターは突進をやめようとはしない。

近くで見ている僕に全く気付くこともなく、別の壁に突進を始めた。


このまま死なせてしまうのはもったいないな。

なんとか助ける方法は無いものかと、まずは【鑑定Lv7】で調べてみた。


【人造モンスター】

Lv 50

ステータス:洗脳(不完全)

HP(体力):285300/350000

MP(魔力):70000/85000

SP(スキルポイント):/265000280000

筋力:180000

耐久:58000

知力:800

器用:165000

俊敏:130000

運:55000


スキル 体当たりLV15 頭突きLv18 格闘Lv20 ※※※ ※※※



えっ?なにこれ?

色々ツッコミどころ満載なんだけど…。


僕よりも遥かに強い…。

少なくともこの階にいるレベルじゃない。

それに人造モンスターって何?

彼?を作った奴がいるのか?

強さの割には知力が今一つ。そこが逆に好感が持てるかもw


ただやはり操られているようだ。

ステータスに【洗脳】と書かれている。

それにしてもあれだけ暴れまわっても、ほとんどダメージを受けていないところが驚異的だ。


ともかくこのままだと死んでしまうだろう(たぶん)。

いや、その前にダンジョン自体が崩壊するかもしれない。


僕は何とか助けようと、まずは彼と意思疎通を図ろうとした。

(そろそろ自分を痛めつけるのは止めにしないか?)

僕は、彼の頭に直接話しかけた。


改めて見るととにかくでかい。

おそらく3メートルはあるだろう。

僕の10倍以上はありそうだ。

もちろん横幅も並ではない。

見るからに筋肉隆々で、茶色の毛が全身を覆っている。


「オ・オデに話かけたのは、オ・オメェか?」

ようやく彼は僕の存在に気づいたようだ。


話しながらも頭を壁に打ち付けるモンスター。

再度血しぶきが舞った。


(何故君は自分の体を傷つけているんだい?)


「オデもわがんね。だども、オデみていな奴は死ななきゃいげねぇんだ。」

彼は壁に頭から突進。壁を突き破って壁の向こうの通路で転倒した。


僕は何とか助けられそうなスキルを探したが、それらしいスキルは見つからなかった。

僕は仕方なくチュートリアルに助けを求めた。


しばらくすると、チュートリアルの声が聞こえてきた。


「どうしたの?光君から連絡するなんて珍しい。」


僕はチュートリアルに5階層での出来事を洗いざらい話した。


「それで君はそこの人造モンスターを助けたいと…。闇落ちまでした君がモンスターを助ける…?」


しばらくの静寂の後、


「うひゃひゃひゃひゃ!君って本当に面白いね!闇落ちした君がモンスターを助ける?笑わせないでおくれよ。」


しばらく笑い転げていたチュートリアルだったが、急に真面目なトーンに戻って、

「君、やっぱり変わってるね。何らかのバグが生じているかもしれないね。もしかして、助けてから食べるつもりかい?確かにそっちの方が悪どいね。」


(いや、なんかほっておけなくて、何とかならない?)


「洗脳されているんでしょ。だったら通常なら洗脳したやつを倒すしかないけど、君の暴食でステータスの洗脳の文字食べられない?」


ステータスも食べられるの?一体何だろうこのスキル。


僕は再度【鑑定Lv7】を使用し、人造モンスターのステータス画面を開く。

洗脳に合わせ、【暴食Lv3 】を使用した。

洗脳の文字がまばゆく光った後、文字の色が色あせていった。


「ステータスを完全に消し去るには【暴食Lv4】以上が必要です」

機械音が僕の頭に響く。

どうやら完全に洗脳を消去することは出来なかったようだ。


「洗脳の文字が薄くなったのなら、少しは効果があったんじゃない?」とチュートリアル。


僕は再度人造モンスターに近づき、


(気分はどうだ?)

「んあ、おめえがなんかしたのか?楽になったわ」


どうやら自分を攻撃する行為はおさまったようだ。

僕は彼に何があったのか聞くことにした。


「なんか突然、ほ、骨のヤツが現れてよ、オデにえらっそうに命令して、どっか行きやがった。」

骨のヤツ?ガイコツのモンスターか何かか?


「そっから覚えてねぇ。気がついたら、おめえがいた。」

洗脳中には記憶もなくなるのか?

とにかくこれで、ダンジョンが破壊されずに済むだろう。


「な、な?オデを連れてってくれよ。オデに変なことしたヤツ、ぶ、ぶん殴りてぇんだ。」

この人造モンスターに殴られたらひとたまりもないだろう。

ただ、洗脳を完全に消し去った訳ではない。

再度暴れまわるリスクがあるのだ。

僕はチュートリアルにも意見を求めた。


「いいんじゃない。プッくく。光君が助けたのだから。」

完全に面白がってるな。

まぁ仕方がない。

こいつを連れて行けば、5階層の攻略の手がかりになるかもしれない。


僕は彼を連れて行くことにした。

ただ人造モンスターでは呼びにくい。


(名前はあるのか?)

「オ・オデの名前?そんなものはねぇ。おめえが呼びたいように呼べばいい」

(僕が?そうだな、でかくて強いから…ハルクなんてどうだ?)

「ハルク…。いいな。気にいった。」


僕は新しい仲間、ハルクを連れて5階層を探索することになった。

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