第38話 5階層
魔眼は非常に便利なスキルだ。
今のレベルだと同じ階層なら、【千里眼】で相手を確認できれば攻撃が届く。
つまり、【千里眼】を使いながら別の魔眼スキルが使えるのだ。
例えば、千里眼+石化で遠距離の相手に対して石化攻撃が出来る。
組み合わせ次第で攻撃のバラエティは無限大となる。
レベルが上がればそのレベル分だけ同時に使える魔眼スキルが増える。
Lv2だと2つまで、Lv3だと3つまで同時使用が出来るというのだ。
ミミック固有スキルの【重力操作】もぶっ壊れスキルのようだ。
僕は今まで自分にのみ使用していたが、このスキルは相手にもアイテムにも使用できる。
相手の武器に強力な重力を発生させて武器を破壊することも出来るらしい。
また、相手に直接使用することで動きを止めたり、重力で敵を潰してしまうことも出来るという。
さらにレベルが上がれば、ダンジョンにも影響を与えることも可能。
使いどころを誤れば、ダンジョンごと壊してしまうこともあるとのことだ。
そんな天変地異的なスキルを一介のモンスターの固有スキルにするのはどうかと突っ込みたくなったが、話が長くなりそうなのでやめておいた。
道中何匹ものモンスターを狩りながら、僕は5階層に向かう階段にたどり着いた。
5階層へ向かう階段も今までと同じような石段造り。
かび臭い匂いが階段の下から漂ってくる。
5階層もまた難解なダンジョンとなっているのか。
えも言われぬ不安に襲われる。
各階層で僕は何度も死にそうな目にあった。
3階層では、獣人の戦士に斬られて実質死んでいた。
地下へ行くごとに難易度が上がるのは確実。
僕が目指す10階層まではまだまだ遠い。
僕は強くなった。強くなった。
僕は自分にこう言い聞かせて、5階層の階段を降り始めた。
・・・・・
5階層は石造りの壁と床で構成されたダンジョンだ。
ダンジョンの壁に等間隔でランプのようなものが取りつけられているので、4階層よりも明るく見晴らしがよい。
壁には一面苔が生えており、キノコのようなものがところどころ生えている。
空中に浮遊する胞子がランプに照らされて、白い霧のようにも見える。
おそらくこの環境がかび臭い匂いを発しているのだろう。
長時間この場所にとどまれば、病気になってしまいそうだ。
ぼくはマッピングしながらダンジョンを探索する。
しばらく探索すると、僕は広く大きな部屋に到達した。
およそ50m四方だろうか、天井も高くなっており開放感のある部屋だ。
慎重に周りを見渡すと、部屋の奥にテントのようなものが立てられている。
テントのそばには焚火の後があり、動物の骨が転がっている。
恐らく冒険者がここにいる。
僕は視覚や聴覚を最大限に使用して、冒険者たちの動向を探った。
しかし、いくら目を凝らしても耳を澄ましても、物音一つ聞こえない。
すでに出発したのだろうか?
テントを残して?
僕はおそるおそるテントに近づいた。
テントのすぐそばまで来ても、物音ひとつ聞こえない。
その代わり、テントの中からむせかえるような悪臭が漂ってきた。
僕は意を決してテントを開けると、そこには2体の人間の死体があった。
2人とも人間にしては背が高く、耳も長い。
腰まで長く伸びた銀色の髪はどこか気品すら漂っている。
おそらくエルフ族だろう。
依然聞いたチュートリアルの話によると、エルフ族は普段は人前に現れることは無いとのことだった。
その珍しいエルフ族が、2人ともテントの中で死んでいる。
ただの死に方ではない。
2人の胸には剣が刺さっている。
しかもその剣を握っているのは自分自身なのだ。
両手でしっかりと剣を握り自らの胸に突き刺している。
一体何が起こったのか?
状況から自殺の線が濃厚だが、自殺を企てている者が直前に食事をするだろうか?
もしかするとまだ別の者がいるかもしれない。
僕の体に緊張感が走る。
血はすでに止まっていることから、すでに数日は経っているのだろう。
手は死後硬直の影響か固まったまま動かない。
よくよく見ると2人の傷口が黒紫色に変色し、傷口の周囲は異様なほどただれている。
毒だ。
剣には毒が塗ってあったのだ。
例え自殺でもそこまで念入りにするのだろうか?
僕は胸騒ぎがして、テントからダンジョンに戻った。
大部屋は依然静まり返っており、物音一つ聞こえない。
僕は一抹の不安を覚えながらも、先に進むためにその場を離れた。
しばらくダンジョンの通路を進むと、人影が見えてきた。
僕は距離をとりつつも相手の反応をうかがったが、人影は壁にもたれたまま動く気配すらない。
僕は警戒しながら近づいていくと、人間の男が壁にもたれかかって死んでいた。
剣を胸に刺して…。
その後も僕は同様の死体に何度も遭遇した。
死んでいるのは人間だけではない。
モンスターも同様に自ら命を奪うような形で死んでいた。
あるモンスターは舌を噛み切って、別のモンスターは両手で自分の首を締めていた。
ここまでくると偶然ではあり得ない。
何者かが何らかの理由で自殺に見せかけ殺害しているのだ。
しかも毒まで使用する徹底ぶり。
強烈な殺意と同時に、殺すことに快楽を感じているのかもしれない。
このダンジョンで遭遇した生物は全て殺されている。
次に狙われるのは僕かもしれないのだ。
グガァァ
苦しそうな鳴き声が背後から聞こえ振り返ると、そこには血まみれのゴリラ型モンスターがよろめきながら立っていた。
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