第36話 暴食

「なんか戦いの最中だったんだねー。ごめんねー。」

ミミックとの戦いの最中に突然現れたチュートリアル。

しばらく音沙汰無しだったのに一体何の用だ?

ピンチの時に!


「いやー、なんか光君がさー、一番選びそうもなかった「闇ルート」選んだから心配したんだよ。」

心配するのは勝手だが、TPOは考えて欲しい。

彼がぐだぐだしゃべっている間にも、僕の体に鉛の矢が突き刺さる。


「あれ、ちょっとピンチな感じ?大丈夫?」


大丈夫かと思ったら、さっさと要件を話して去ってくれ。


「もう、相変わらず怒りっぽいんだから。そもそもレアスキルの【暴食】持ってるんでしょ?この程度の相手に苦戦するはずないよね?」


えっ?確かに便利なスキルだけど、相手に寄れなきゃ意味ないんじゃ…?


「相変わらず光君は頭が堅いなぁ。スキルの説明見たでしょ?『何でも食べれる』って。」


いや、見たけど相手が傍にこなきゃ食べれないよね?


「そこが頭堅いって言ってんの。『何でも』の意味は『何でも』なんだよ。」


えっ、どういうこと?


ドスドス


木箱ミミックの鉛の矢が再度僕の体に突き刺さる。

宝箱ミミックも体を起こし始めた。


「今、重力をかけられて動きがとれないんだよね?食べちゃえばいいじゃん。」


は?重力を食べる?


「暴食ってスキルは、金属でも魔法でも、スキルだって食べられるんだ。とにかくやってごらん」


重力を食べる?とりあえずこうすればいいのかな?

僕はその場で大きな口を開け、重力を食べるイメージで口を閉じた。


バクン。


あっ、体が軽くなった。

これで動ける。


突然動き始めた僕に、2匹のミミックは驚いたのか急に後方に飛び退いた。


「そうそう、そんな感じ。じゃあ次は距離を食べてみよう。」


距離を・・・食べる!?


「相手と自分の距離を口で引っ張るようなイメージ。そうだなー、ポッ〇ーを食べてると短くなるでしょ。短くなると一番先っぽと口の距離が短くなっちゃうよね。」


空気を物に見立てて食べるというイメージか。


「だいたいそんな感じ。じゃあやってみよー」


僕はミミックまでの距離をホットドックを食べるイメージを持って、一口でかぶりついた。


突然、僕の体が前方に急速に引っ張られる!

これ、結構Gがかかる…!


僕は一瞬で木箱ミミックの前に飛ばされた。

突然現れた僕に、驚きを隠せない木箱ミミック。

僕から離れようとするも、逃がす僕では無かった。

僕は口を大きく開き、逃げる木箱ミミックと同じスピードで追いかけた。

そして、僕は一口で木箱ミミックを平らげたのだ。

ミミックを倒した経験値とスキルが僕の中へと浸透する。

だが、確認は後回し。

残りの一匹を始末しなければ。


勝ち目が無いことを悟った宝箱ミミックは、部屋の入口へと彼なりの全速力で駆けていく。

しかし、距離すら食べられる僕の前ではそんな行為は全くの無駄な努力。


僕は彼との距離を食べて、宝箱ミミックの背後に迫った。

【食べるLv8】で食べようとしたが、彼の体は大きく堅く、一口で食べることは出来なかった。


それなら食べやすいように砕いて食べよう。

僕は舌で宝箱ミミックを巻きつけ、僕の体より高く一気に持ち上げる。

【獣神の宝玉】の補正効果は凄い。

たとえ重い宝箱ですら、鉛筆を摘まみ上げるような強さで持ち上げられるのだ。

僕は少し力を入れてミミックを締め付けると、あっさり真っ二つにねじ切れてしまった。


僕は切断された体を一つずつ、口の中へと放り込んだ。


「わかった?これが【暴食】の使い方。Lvが上がるともっとすんごいことが出来るようになるよ。」


これよりも凄いこと…?一体どんなことが出来るんだろう…


「スキルのレア度で言ったら【暴食】ってレアの上のウルトラレアに当たるんだ。今このスキル持ってるのって光くんだけじゃないかな。」


そんなチートスキルだったんだ。


「君の持つ【獣神の宝玉】よりもずっと格上だよ」


物理では無双の【獣神の宝玉】より?凄いスキルを手に入れたもんだ。


「時々光くんのこと見てたけど、戦い方全然なってないね。せっかくいい場所見つけたから、ちょっとここで戦い方を覚えていこう。」


縄張りのはずが、練習部屋になるようだ。


「まずはもう一匹の潰れた木箱ミミックを食べて、スキルとレベルを確認してみようか」


僕はバラバラに破壊された木箱ミミックの傍に寄り、一口で彼を平らげた。


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