第35話 ミミックバトル

僕の仕掛けた罠はここまでは完璧だった。

その後も何度も冒険者が訪れたが、僕にたどり着く前にことごとく罠にやられてしまった。

一つ二つ罠をかわしたとしても、一つでも罠に触れると全ての罠が発動するのだ。


もちろん完璧ではない。

一回で全ての罠が失われるので、バトル終了後罠を再購入するのにはコストがかかる。

また、罠を設置するのにも時間を要するのだ。


一度2つのパーティーが同時に僕に向かってきた。

先行したパーティーが罠にかかって全滅したのを見て、もう一つのパーティーは向かってこず逃げてしまった。

もしもそのまま、僕に襲いかかってきたら別の対策を取る必要があった。

彼らは全滅した時の勢いに圧倒され、罠に不必要なまでの恐怖を抱いてしまったようだ。


ただ、もうこの作戦は通用しないだろう。また、逃がして締まった冒険者によって、僕のことやこの通路のことも広まってしまうだろう。


僕は別の場所に移動することにした。


実はこの場所を縄張りとする前に、僕は縄張りにするのにピッタリの場所を見つけていた。

今いるエリアから西に300mほど行った先に、通路の途中の壁にドアが取り付けられていた。

その時は違和感を覚えてドアの中に入らなかったが、今考えてみれば隠れ家にはぴったりかもしれない。


僕は新たな住処とすべく、ドアを目指して進み始めた。


敵と遭遇しなかったため、意外と早くドアの前に到着した。

注意していなければこのドアに気づくことはないだろう。

通路とほぼ同系色のドアが、通路の途中に取り付けられている。


装飾もなく、特に何の変哲もない金属製のドアだ。

鍵穴はついてはいるが、鍵はかかっていないようだ。

鍵穴から中を覗くと、やはり中は部屋になっているらしい。


罠が用意されているかもしれない。僕は周囲に気を配りながらドアの中に侵入した。


ドアの中は倉庫のようだった。広めの部屋の中に無数の木箱が積まれており、棚には表紙がボロボロになった本や、丸められた紙などが立てかけられている。


部屋の奥には、時代を感じる古い宝箱が置かれていた。


ミミックかもしれない。僕は恐る恐るその蓋を開けてみた。

宝箱の中は空っぽ。ミミックという風でもない。

他の木箱も同様だ。すでに誰かが中身を持ち去った後だろう。

この部屋を入念に調べたが、罠も設置されていないようだ。


今度はここを縄張りにしよう。

僕が罠の準備をし始めたその時だった。


背中に悪寒を感じ、僕は咄嗟に前方へと回避した。

その瞬間、僕の背中を鋭利な刃物のような物がかすめる。


振り返ると底にはミミックがいた。

先ほどの宝箱だ。

宝箱の上蓋と下蓋部分に牙のようなものが生えている。

おそらくこれが僕の背中をかすめたのだ。


さきほど見た時は何の変哲もない空箱だった。

おそらく【擬態】だ。

擬態を使いこなすと、ここまで分からないものなのか。

僕は「チュートリアルの擬態を使え」という言葉を思い出していた。


物音がして振り返ると、さっきまでの小箱も動き出している。

小箱もみんなミミックだったのだ。


僕はあっという間にミミックたちに取り囲まれていた。


(レアアイテムをよこせ!)

僕の頭に直接声が聞こえてきた。


おそらく宝箱のミミックだろう。

奴は僕をしっかり見据えている。

この世界に来て、僕以外のミミックを見たのは初めてだ。

出来れば仲良くしたいが、それは難しいだろう。


何よりレアアイテムを簡単に手放すつもりなんて無かった。

これは僕の物だ。僕がカエルたちを倒して奪ったものなのだ。

僕からレアアイテムを奪おうとするなら殺す。

同種族であろうが、僕が人間に戻るのを邪魔する奴は絶対に許さない。


鑑定Lv7で宝箱ミミックを鑑定するも鑑定できない部分が多すぎる。

全体的なステータスやレベルは僕の方がやや上だが、スキルの多さでは相手の方が上のようだ。

つまり、木箱ミミックたちがいる分、相手の方が圧倒的に有利だろう。



まず最初に襲ってきたのは木箱のミミックたちだ。

僕はミミックたちを薙ぎ払おうと舌を振り回したが、あっさりとかわされてしまった。

その瞬間に体当たりをしかける木箱ミミック。

僕はよけきれずに、まともにその攻撃を食らってしまった。


バランスを崩したところに、もう一匹のミミックが毒針を飛ばす。

僕は当たる直前に【方向転換Lv7】で攻撃をかわしたが、宝箱ミミックの強力な舌が頭に直撃した。


ぐえぇっ!

頭に強烈な痛みが走る。

僕の宝箱に小さなへこみが出来てしまった。


僕は急いで後方に離れた奴らとの距離を確保する。

ミミックは木箱ミミック×2、宝箱ミミックの合計3体。

どのミミックもスキルを十分確保しているので、油断すると一気にやられてしまうだろう。

スキルを出し惜しみしている余裕もない。


獣神の宝玉を手にしている以上、物理攻撃さえ当たれば一撃で倒すことが出来よう。

いかに物理攻撃を当てるかが勝負の分かれ目だ。


パーン!

突然、僕の宝箱の前面に大きな音とともにへこみが出来た。

どこからか飛び道具が飛んできたようだ。

痛みはほとんどないが、傷がついている。

意識外からの攻撃を受け、怯んだ僕に木箱ミミックが飛び込んできた。


攻撃をかわそうとした僕だったが、パーンと今度は側面にダメージを受ける。

一瞬攻撃を受けた方向に気を逸らした瞬間、木箱ミミックの噛みつきを受けてしまった。

小柄な木箱ミミックにも関わらず、噛みつきの威力は強い。

ミシミシと僕の宝箱がきしむ。


僕は舌で振り払おうとするも、木箱ミミックに攻撃をかわされてしまった。


パーン!

再度僕の側面に炸裂音が響く。

方向を確認するとどうやらもう一匹の木箱ミミックのようだ。

少し離れた距離から、何らかの攻撃をしかけてくる。


このミミックたちは連携攻撃を得意としている。

もちろん頭も良い。

僕の物理攻撃を徹底的に避け、一匹はヒットアンドアウェイで攻撃。

もう一匹は離れたところからの飛び道具。

そして、宝箱ミミックは強烈な一撃を狙っている。


この連携を破るためには僕も戦略が必要だ。

考えろ。考えろ。


パーン!

考えている間も、飛び道具攻撃は続く。

攻撃を受けた直後にもう一匹の木箱ミミックが飛び込んでくる。

僕はわざとぐらついた振りをして、木箱ミミックの噛みつきを受けた。

僕の宝箱に小さい亀裂が入る。

僕が舌を振り上げると木箱ミミックは噛みつきを止め、後方に飛びのこうとした。


しかし、今度は木箱ミミックは僕から離れられない。

僕は3階層で覚えた【吸盤Lv3】を使用し、木箱ミミックを僕から離れられないようにしていた。

強引に離れた木箱ミミックだったが、時すでに遅し。

僕の舌の振り落としをまともに受けて粉砕してしまった。


もう一匹の木箱ミミックが僕に遠距離攻撃をしようとしたが、攻撃は失敗に終わる。

実は攻撃を受けている間、僕は射線方向を分析しており、打つ前に木箱ミミックに近寄り奪うLv7でその武器を奪っていた。

奪った武器はパチンコのようなもの。僕はその武器を自分の宝箱に収納した。


その攻撃の最中に宝箱ミミックは僕に【重力Lv3】を使用。

僕の体が急に重くなる。

僕は今まで自分にしか使ってこなかった【重力】。

他人に使うとこうもいやらしいスキルだったのだ。

戦闘をしながら戦い方を学ぶ僕。

ミミック同士で戦うとかなり強くなれるんじゃないだろうか。


ともかく奴は僕の行動を大きく妨げた。

今までのように素早くなんて動けない。


動きが遅くなった僕にでも、徹底して距離を取る木箱ミミックは別の飛び道具を発射する。

鉛の矢が僕の体にいくつも突き刺さった。


宝箱ミミックも僕に【重力Lv3】を使い続ける。

使い続けることで、ずっと効果が持続するみたいだ。


さらに彼は、ミミック固有スキルの邪眼で僕の目をにらみつける。

僕の体がパチパチと音を立てながら、箱の底部から石のように堅くなり始めた。

石化だ。

奴は邪眼の一つ「石化」を使ったのだ。


このままやられてたまるか!

僕は邪眼の一つ「爆発」を使用した。


ボン!

宝箱ミミックの目の前で小さな爆発が起こる。

奴は、大きく口を開いたまま後方に吹っ飛ばされた。


僕の石化の進行は止まったが、重力Lv3はまだ生きたままだ。

僕は依然身動きが取りにくい状況にいた。


その時、

「やっほー、元気?」

とぼけた声が僕の頭に響く。

チュートリアルだ。

突然の彼の登場で、僕の思考は一瞬止まってしまった。


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