第34話 新たな縄張り
僕はマップを確認しながらダンジョンの通路を探索する。
迷宮としては単純だが、直線距離が長く敷地としては広大だ。
長く続く通路にいくつか罠も仕掛けられているので、集中力をなくすと罠に引っかかってしまう。
単純なものほど恐いのだ。
通路を進んでいる間、周囲からの視線を感じる。
一つや二つではない、無数の視線が僕をつけ狙っているのだ。
ただ、いきなり襲ってくる相手は大概雑魚。
このフロアを探索中に幾度と襲われたが、そのほとんどが歯牙にもかけないほどの弱い相手だった。
それでもスキルの獲得やレベルアップ、お腹を満たすことには役立つ。
また、僕はのぞき見をしている奴らへの牽制を込めて、出来るだけ残酷に倒してから食べた。
以前の僕ならそんなことは出来なかったであろう。
良心の呵責に耐えきれなかったに違いない、
今の僕は目的のためには、どんな手段をとっても心を痛めることはない。
それも【闇落ち】の称号の効果だろうか。
僕が今探しているのが、小部屋もしくは行き止まり、および下層へ行くための階段。
自分が有利に戦えるための縄張りを確保することが必要だ。
フロアを探索しているうちにいくつか候補が現れた。
①シンプルな行き止まり。直線距離が長い。
②①と同じような造りだが、行き止まり部分は広くなっている。
③直線距離は短く、通路も人一人がなんとか通れるくらい狭い。
僕が選んだのは②だ。
戦闘で使える部分は広い方がいい。
僕は②のエリアに戻り、縄張りの設営を始めた。
僕が重視したのは、罠の広範囲化と連続性。
直線通路の奥に、ぼうっと浮かび上がるレアアイテム入りの宝箱。
罠を警戒していない奴はいないだろう。
ただ人は罠を回避した瞬間が、最も隙を作りやすい。
それなら避けた先に別の罠があったらどうだろう?
安心した直後に別の罠があれば、引っかかる確率は高まるであろう。
避ける場所を予測し、準備をしておくことで大ダメージが期待できる。
強者や強いパーティには罠の1つや2つ引っかかってもさほどダメージを与えられないだろう。
しかし、一度に連動する罠が1つや2つでなかったら?
今回ためして見るのが連続性。1つの罠にかかってしまうと、次に罠が発動する仕組みだ。
一つ一つの効果が小さくとも、連続して受けてしまうと大ダメージは避けられないだろう。
僕と戦う前に十分なダメージを受けてくれれば、戦いが容易になる。
ただ、心配なのが逃げ道が無い点だ。
一方通行の突き当りのため、後ろから襲われる心配は少ないが逃げる手段は確保されていない。
相手が僕よりも強かった場合の対策は不十分だ。
【逃げる】スキルがそれに当たるが、近距離間の退避となる。
おそらく移動スピードが速い敵には効果が薄い。
今後は【苦る】以外の退避スキルが必要となってくるだろう。
十分お膳立てが出来た。
罠をセットし終えた僕は、僕に視線を向けていた敵が来るのを待ち続けた。
僕が気づいたのは、人間の冒険者のパーティだった。
ぼうっと赤白く光る僕の姿に気づいたのか、通路を真っすぐ僕の方に向かって近づいてくる。
屈強な体格とそれに負けない大きな盾を持った戦士風の男、自分の体ほどもある大きなハンマーを片手に持つ丸っ鼻の小柄の男。ドアーフだろうか?2本の剣を両手に持ち、騎士風の鎧に身を包んだ女、その後ろを歩くのが司祭のローブをまとったきれいな女だ。
彼らは入念に罠をチェックしながら進んできた。
罠の回避が得意なのか、次々に罠を避けて向かってくる。
半分ほど通路を進んだ辺りで、司祭風の女が誤って罠の発動スイッチを踏んでしまったのだ。
即座に爆発する地面。
近距離での爆発を受けて、司祭風の女の下半身が吹き飛んだ。
地雷だ。
アバターリストでは現代風の武器や罠も沢山用意されている。
おそらく見たこともない罠だろう。
動揺している戦士に壁から多数の剣が飛び出した。防御を固めて耐える戦士だったが、右肩と左太ももに深々と剣が刺さる。
もちろん、これで終わりではない。
突如床が開いて逃げ遅れた戦士が落下した。
落とし穴の下には鉄製の剣が敷き詰められており、床から落ちた戦士に容赦なく突き刺さった。
壁から飛んでくる剣を剣で薙ぎ払っていた騎士の女だったが、足にロープが巻きつき、逆さに天井に吊り下げられた。
逆さに吊り下げられたまま、攻撃を避けられるわけはない。
彼女は必死で抵抗するも、一本、また一本と壁から発射される剣にその身を貫かれていた。
一早く罠に気づき、僕とは逆方向に逃げ出すドワーフ。
襲いかかる罠に傷つけられながらも、見事なステップでかわし致命傷を避けている。
しかし、このまま逃がす僕ではない。
【隠密Lv3】で気づかれず彼に近づき、【奪うLv7】で彼のハンマーを取り上げた。
僕は奪ったハンマーを舌に巻きつけ、頭上高く持ち上げた。
動揺しているドワーフの足に【毒針Lv6】を発射。
動きが止まったドワーフの頭に、ハンマーを叩きつけた。
生き残っている者は誰もいない。
僕は彼らたちを装備ごと平らげたのだった。
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