第33話 4階層

3階層と違い4階層は比較的平凡なフロアだ。

石造りの壁がダンジョン全体を覆っているようで、道は狭く天井は低い。

これぞダンジョン、と言いたくなるようなシンプルな造りだ。

明かりとなるようなものは無いので、全体的に暗くかび臭い。

暗闇に強いモンスターなら問題はないだろうが、人間だとランプや松明などが必要だろう。


ただここのダンジョンは直線が長く、もし誰かが明かりなどを使用していれば、離れた所からでもその姿が確認出来るのだ。

しかもこのフロアにはトラップが多い。

居場所を知られないようにと、明かりを使わずにいれば簡単にトラップに引っかかってしまうだろう。

シンプルなフロアのようで、なかなか難易度が高い。


僕はというとレアアイテムを所持しているためか、宝箱自体がうっすらと光を帯びている。

通常のフロアであれば目立つほどのものではない。

ただ、このフロアのような造りであれば、レアアイテムを所持していることが簡単に分かってしまうだろう。


今のところ、まだ襲われてはいない。

気づいていないはずはないので、おそらく攻撃するタイミングを図っているのだろう。

慎重に慎重にダンジョンを探索する必要がある。


今の僕は獲物を狙う立場にはない。

僕は狙われる立場にあるのだ。


時折聞こえる物音は僕を突け狙う奴の足音だろうか?

近づいたり、遠ざかったり距離が定まっていない。

僕を惑乱させるためか、それともただの偶然か?


ようやく十字路に差しかかった。

特に何の変哲もない十字路だ。

どれも同じような通路なので、マップスキルが無ければ迷ってしまうかもしれない。


もしかするとここで襲われるのかと思っていたが、誰も襲ってくる気配はないようだ。

ただ、誰かにずっと見られているような気配は感じている。

隙を狙われている。

集団で襲いかかって来るよりもたちが悪い。

僕はずっと神経を集中させていなければならないのだ。


このフロアに来てしばらく経つが、未だに誰とも戦っていない。

音はするが姿は見えない。

僕はこの状況にうんざりしてきた。


長い通路を真っすぐ進む。

このフロアの直線の通路はとにかく長い。

一つの通路で直線距離は50mほどあるだろう。

また、通路にはトラップが仕掛けられている。

壁に設置されていたり、床に設置されていたり様々だ。


トラップは落とし穴系、武器放出系、吊り天井系と様々だが通路に一つは必ずある。

そのため、周りの敵を気にしつつもトラップも意識しなければならない。


今までのフロアとは違い、通路を歩くだけでも集中力を要する。

恐らく僕の追跡者も僕が疲れてしまうのを待っているのだろう。

このフロアに精通した奴が狙っているに違いない。


今僕が探しているのは行き止まりだ。

狙われる方向を固定したい。

また、罠も仕掛けやすいだろう。

しばらく一か所に落ち着いて、対策を練りたい。


今進んでいる通路も特に何も起こらなかった。

このまま平穏に探索が出来るかと思った瞬間、


ガサガサッ

次の十字路に向かう先で、物音がする。

どうやら人間の足音のようだ。

冒険者か?

僕をつけ狙っている奴らとは違うような気がする。


どうする?

やり過ごすか、戦うか、それとも出方を伺うか。

足音から察するに、相手は3人。

重く力強い足音をしている2人は戦士タイプだろう。

あと一人は軽装のようだ。主に魔法攻撃をするタイプかもしれない。


僕は通路の端に寄り、念のため擬態Lv7を使用し様子を伺った。

案の定、冒険者たちは十字路を僕のいる通路に向かって歩いてきた。


もちろん、通路でぼうっと光を発している僕に気づかないわけはない。

僕の姿に気づくと、戦士風の男は持っていたランプを僕の体に近づける。

戦士風の男は、後ろを歩く軽装の男に僕を鑑定するように指示をする。


鑑定されるとやっかいだ。

僕は後ろを向いて油断している男に、飛び込み噛みつきを行った。

不意をついたつもりだったが、戦士は素早く反応し、なんとか僕の攻撃をかわす。


もう一人の戦士風の男が、僕に剣で切りつけてきた。

僕は咄嗟に【鉄壁Lv3】を使用し、戦士の斬撃をはじき返した。

宝箱の硬い装甲に阻まれ、真っ暗の通路に火花が飛び散る。


その間に軽装の男が、僕に鑑定を実施する。

初めて相手に鑑定をされたが、体全体を吸引されているような不思議な感覚だ。

鑑定を終えた軽装の男は、興奮した様子で2人の戦士に結果を伝える。


どこまで鑑定出来たのかは分からないが、3人の目の色が明らかに変わった。

戦士二人は自分の体に強化系スキルを使用し、大声をあげながら僕に突進してきた。


4階層まで来れるのだ、彼らは相応に強いのだろう。

ただ、僕の興味は彼らには無かった。

僕が気にしているのは、この戦いを近くで見ている者たち。

この戦いを通して僕を値踏みしているように感じる。


あるいはこの戦いの最中に何らかの攻撃を仕掛けてくるかもしれない。

僕は戦っている間も警戒を緩めることは出来ない。

攻撃をしている時も、かわしている時も常に周りにも気を配らなくてはならないのだ。


僕は軽快に戦士たちの攻撃をかわした。


可哀想だが、彼らには僕のために役立ってもらおう。

のぞき見している奴らにプレッシャーを与えるには、

①圧倒的な力で倒し、力の差を見せつける。

②惨たらしく倒し、逆らうとこうなるというメッセージを送る。


僕が選んだ方法は②だ。


僕は戦士たちの攻撃をかわしながら、武器を持つ右手にワイヤーをそれぞれ巻きつける。

彼が手を振り上げた瞬間に、ワイヤーをぐっと締め付けた。

音もなく、手首から先が綺麗に切断される。


痛みで悶絶する戦士の左足に舌を巻きつけ、一気に骨ごと絞め潰した。

もはや立っていることすらできなくなった彼は、叫びながらその場に突っ伏した。


もう一人の戦士の足にも舌を巻きつけ、逆さに釣り上げたまま勢いをつけて背中から壁に叩きつけた。


グシャ

僕の舌から彼の背骨が破壊される音を感じる。

今度は顔面から壁に叩きつける。


鈍い音が通路に反響する。

戦士の体から力が失われ、すぐに動かなくなった。

もう終わり?

僕は彼の足を吊り下げたまま、僕の口へと放り込んだ。


いつの間にか軽装の男の姿が見えない。

恐らく逃げたのだろう。

僕は痛みに悶絶しているもう一人の戦士に近寄り、舌をしならせて硬化した舌を彼の背中目がけて叩きつけた。


あまりの威力に、地面にめり込む戦士。

もうこと切れているのだろう。

ピクリとも動かない。


それでも僕は攻撃の手を止めない。

2度、3度、僕は渾身の力を込めて、舌を彼の背中目がけて叩きつけた。

明らかに骨の砕ける音が周囲に響き、口からも大量の吐血が見られる。


もうアピールは十分だろう。

僕は彼を舌で持ち上げ、口の中に放り込んだ。

彼を食べる間も周囲への警戒は怠らない。

幸いにも誰も追い打ちをかけてくる様子はない。


僕は再度周りを確認し、何事も無かったかのようにダンジョン探索を再開した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る