第18話 戦闘の終結
オートモードから解除された僕の体は宝箱になっていた。
入れ物が変わっただけなのだが、僕は自宅に戻ったようななんとも言えない安堵感を感じていた。
今までと何が違うのか、僕は体を動かそうとした。
(お、重い…)
あれほど軽かった体が、何倍もの重さを感じる。
口を開くだけで一苦労だ。
(これで本当に戦えるのか?)
ゴブリンたちはようやく強烈な光の刺激から立ち直っていた。
獣人たちも同じく僕を探し始めた。
一匹のゴブリンが、僕の目の前に転がっている箱の抜け殻に気づいたようだ。
近くのゴブリンに声をかけ、武器を構えて向かってきた。
そのゴブリンの動きに気づいた獣人も、ゴブリンを追って僕の方へと向かってきた。
今や生き残っている獣人は3名。
僕を槍で刺した女の子と、リーダー風の男性、弓を構えた細身の男性だ。
僕は擬態Lv3を使用し、やつらの様子を伺うことにした。
転がっている箱にいち早く到達したゴブリンは、中身を確かめることなく持っていた斧を箱に叩きつけた。
箱は真っ二つに切断され、地面に激突し宙に浮かび上がる。
もちろん、箱には中身はない。
箱の破片は地面に落下し、粉々になった。
僕を倒したと思ったのか、ゴブリンは大きな雄たけびを上げ足を踏み鳴らした。
その行為が他のゴブリンにも伝染し、同じように雄たけびを上げ、ダンダンとその場で足を踏み鳴らした。
一方獣人たちは、納得がいっていない様子。
箱の断片はあるものの、僕の姿が見当たらない。
女の子の獣人がふと僕の方を見た。
破壊された箱の前に、今まで無かった宝箱が置かれてあるのだ。
怪しすぎることこの上ない。
彼女は持っていた槍で僕を軽く突いた。
カンッ
うん、ちょっと痒いくらいで痛くはない。
この程度なら耐えられるだろう。
僕はもう少し様子を見ようと彼女の行動を無視した。
そこへ一匹のゴブリンが僕の方へやって来て、箱を開けようと僕の蓋に手をかけた。
戦利品にしようと思っているのか、箱の傍にいる彼女を目で威嚇しているようだ。
ギギギ…。
上蓋がゆっくりと開き、ゴブリンは中身を確認しようと身を乗り出した。
宝箱の中で光る僕の目とゴブリンの目がバチっと合う。
ギャッ、ギャッ!
驚き、声をあげるゴブリン。
(仕方がない、もはやここまで)
ガチン!
僕は力いっぱい口を閉じた。
身を乗り出していたゴブリンの体を真っ二つに切断!
ギェェェツ!
ゴブリンの断末魔の叫びが静かなダンジョン内に響き渡り、一瞬で周囲に緊張が走る。
獣人の女の子は青ざめた顔で、その場にしゃがみ込んだ。
女の子の元に駆け寄る獣人!
雄たけびを上げながら、残りの8体のゴブリンも僕に襲いかかってきた。
【体当たりLv5】
十分にゴブリンを引き付けてから、僕はスキルを発動。
ドゴォォン!
激しい音を上げ、体当たりを受けたゴブリン3体が大きく吹っ飛ばされた。
体当たりの移動距離は短くなったが、破壊力は倍加されているようだ。
僕の体にゴブリン達の骨が砕ける感触がはっきりと感じられる。
地面に激突後しばらくは痙攣していた3匹のゴブリン。
すぐに完全停止をしてしまった。
その様子を見ていたゴブリンたちがざわめきはじめ、胸の色が赤(怒り)から青色(恐れ)へと変化し続けていた。
先ほどまでは盲目的に襲いかかってきたゴブリン達だったが、僕から少し距離を取り始めた。
僕がゴブリンたちに近づけば、ゴブリンたちは同じ距離だけ動いて距離をとろうとする。
少しの間膠着状態が続いた。
獣人たちも同様で僕から距離を置き、僕とゴブリンたちを傍観している。
しびれを切らしたのか一匹のゴブリンが飛び込んできた。
【弓Lv1】【狙い撃ちLv1】
僕はゴブリンの右足を狙って弓矢を発射。
ゴブリンの右太ももに弓矢が刺さり、前のめりに倒れるゴブリン。
その背後から残りのゴブリン全員が飛び込んできた。
【悪食Lv5】
入れ物が変わって大きくなった僕の口は、飛び込んできたゴブリンを全て一撃で噛みちぎった。
圧倒的な破壊力。
ゴブリンが構えた盾ごと胴体を噛みちぎり、声を上げる間もなく絶命した。
僕は恐怖で怯えているゴブリンに近づき、【食べるLv8】で一口で食べた。
残りは獣人の3名。
彼らに目を向けると、獣人たちは同じ場所でうずくまっていた。
怯えた表情をしながらも、僕に向かってくる戦士風の獣人。
その後ろから弓矢を放つもう一人の獣人。
女の子は完全に戦意を喪失しているようだ。
僕は向かってくる獣人を舌でつかんで持ち上げ、飛んでくる矢の盾とした。
「@%&」
獣人の背中に矢が突き刺さり、うめき声が聞こえる。
そのまま男を地面に叩きつけ、《食べるLv8】で獣人を丸ごと平らげた。
逃げようとする弓使いの獣人の足元に【とらばさみLv3 】を実施。
苦痛の声を上げ倒れる彼に、毒針Lv4を彼の胸に突き刺した。
痙攣中の彼に近寄り、僕は彼も一口で食べた。
最後に残ったのは女の子一人。
今度は僕も彼女を逃がすつもりは無かった。
恐ろしさのあまり股間を濡らす彼女にゆっくりと近寄り、彼女の傍に転がっていた槍を舌で持ち上げた。
(君が望んだことなんだよね。僕は君を助けてあげたかっただけなのに…)
僕を凝視する彼女の表情には恐怖しかなかった。
瞬きすることもなく、震えながら僕の挙動にうつろな目で注目する。
おそらくこれから何をされるのか分かっているのだろう。
僕は迷うことなく、彼女から奪った槍を彼女の左足に地面ごと突き刺した。
激痛でもだえる彼女。
僕は彼女を見つめながら大きな口を広げた。
バクン。
僕は彼女を一口で平らげた…。
一連の騒動が終わり、ダンジョンは再び静けさを取り戻したのだった。
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