第12話 死闘

強敵のクローラーを難なく倒せるようになった僕には、人の食べ物を漁るだけのハイエナガエルなんて敵ではない!

少し慢心していたのかもしれない。

僕は体当たりLv3を使用し、果敢にハイエナガエルに向けて突進した。


ハイエナガエルのした攻撃を方向転換スキルでかわし、背後に回るために再度体当たりLv3 を使用。

ハイエナガエルも意表を突かれたのだろう。

僕の動きに反応しきれずにいた。

攻撃のチ

体当たりの有効範囲内の移動が続いているうちに、方向転換スキルを使おうとしたその時だった。


ーガリッー


嫌な音と共に地面のでっぱりに箱の底が引っかかり、僕は勢いよく前方に倒れてしまった。


(えっ!?)


体を動かそうとしても身動きが取れない。箱すら開けることも出来ない。

僕は、為すすべなくその場にとどまるしかなかった。


以前同じような状況となった際には、クローラーの攻撃により偶然にも起き上がることができた。

今度も同じ展開を期待するしかなかった。

僕は一瞬のチャンスにかけ、ハイエナガエルの攻撃をじっと待った。


しかし、待っても待ってもハイエナガエルが攻撃をしかけてくる気配はない。

警戒しているのだろうか?


ーバタン、ガタガタ、バタンー

なんとか自力で起き上がろうとして、箱を開けようとその場で繰り返しトライするも起き上がれそうな様子はない。

箱がガタガタと揺れるだけで、全く動くことが出来ないのだ。


ーバンー

(ぐぇっ!)

背中に強烈な一撃を受けた!

おそらくハイエナガエルの攻撃だろう。

堅い金属の棒で叩かれたような衝撃。


ーミシッ、ミシッー

箱の亀裂が大きくなるのを感じる。

先にクローラーに攻撃を受けた部分の破損が大きくなっているようだ。

休む間もない連戦で、すでに箱はボロボロ。

すでにいくつかの部分は剥がれてしまっている。


さらに攻撃をしてくるかと身構えたが、追撃してくる様子もない。

僕はその場で放置されているのだ。


ームシャ、ムシャー

ごく近くで、何かを食べるような音が聞こえる。

一体だれが…?


あっ、アイツ、クローラーを食べているのか!?

もともとハイエナガエルは僕が倒したクローラーを狙っていた。

そもそも僕と戦う必要もないのだ。


ーバン!ミシッー

(ぐぅぅ…!)

ハイエナガエルは不定期に僕の背中に攻撃を加える。

箱が回転しないように中心部だけを狙い、加減しつつも確実にダメージを与えられる強さで。

連続で攻撃せず、常に単発。

それでも箱がきしみ、破片が辺りに散乱する。


一度攻撃しては距離をとり、クローラーを食べ始める。

僕はハイエナガエルのルーティーンから抜け出せずにいた。


…。

どれほど時間が経過しただろう。

依然僕は前に倒れたまま動けず、ハイエナガエルの攻撃を受け続けている。

いくらもがいても体を起こすことが出来ない。

クローラーの時のように、ハイエナガエルは起き上がるチャンスをくれそうもないのだ。

幸いにも攻撃力は強くはないので、耐えられているがそれでも確実にHPは削られている。

現在HP180→85となっていた。

しかも、同じところに集中して攻撃を受けており、背中の部分はほぼ全損状態。

攻撃の度に受けるダメージも段々と大きくなってきた。


すでに一匹のクローラーを食べ終えたようで、もう一匹のクローラーを食べようと移動し始めたようだ。

もう一匹のクローラーを食べ終えた後は、僕の番だろう。

さんざん弱らせた後に、本気で僕の命を奪おうとするに違いない。


(このままやられてたまるか!)


ージュッ、ジューッー

僕は箱の中から溶解Lv2を使い、箱ごと地面を溶かし始めた。

焦げる音と共に、箱の前面に強い痛みを感じる。

前方にスペースを空けて、箱の開閉が出来るように企てたのだ。

1回の溶解で地面に穴を開けられる量はごくわずか。

十分な穴を空けるには少し、時間がかかりそうだ。


慎重なハイエナガエルには絶対に気づかれてはならない。

何の策もなく起き上がろうとするフリを繰り返し、その度に背面に攻撃を受け続けた。


「溶解のレベルが上がりました」


溶解のレベルが上がると共に地面に穴を空ける速さが格段に上がった。

しかし、一回で放出する粘液が増すと同時に僕の箱前面のダメージも大きくなった。

HP85→55と徐々に減り続けている。


・・・

ようやく十分な穴を空けることが出来た。

箱の蓋を空けようとしたその時、背後に気配を感じた。


ーバンッ!バンッ、ミシッ!バンッ!ー

(うわぁぁっ!)


今まで単発だったハイエナガエルの攻撃が連続攻撃に変わった!

間髪入れずに生暖かい棒のような物で僕を叩き続ける。


これは舌だ!ヤツは舌で僕を攻撃してるんだ!

勢いづいて攻撃するハイエナガエルだったが、箱が回転するほどの強さでは攻撃してこない。

あくまでも冷静に僕のチャンスを潰そうとしているのだ。


ここしかない!

僕は前方に空いた地面のスペースを利用して勢いよく箱を開けた!


箱を開けるだけでは状況が改善しない。

僕は箱を開ける力を利用して、起き上がろうと試みたのだ。


もっと強く!背中を反るように!

僕は限界まで箱を開け、その反動を力に変え始めた。


ーバキッー


箱の蝶番が外れ、箱の蓋が箱本体から外れてしまった。

急に飛んできた箱の蓋を避けることが出来ず、まともに当たるハイエナガエル。

そのまま後方に飛ばされてしまった。


なんとか起き上がることに成功した僕だったが、蓋が外れ、木箱の至るところが剥がれ落ちている。

箱の底部にも大きな穴が空いている。

満身創痍のまま立ち上がった僕の姿は、もはやミミックには見えなかったであろう。


頭から血を流しながら起き上がるハイエナガエル。

怒りで我を忘れているのか、直線的に僕に向かってきた!


僕は毒針Lv4をハイエナガエルに向かって発射したが、ハイエナガエルにあっさりとかわされてしまった。

ハイエナガエルは長い舌を振り回し、僕に向かって鞭のように打ちつける。

僕はかわすために方向転換Lv3を使用し、体当たりスキルで近づこうとした。

もはやリスク覚悟の捨て身のトライ。

失敗したら同じように転倒してしまうだろう。


起死回生の思いで使ったスキルだったが、なんと方向転換スキルは発動すらしないのだ。

箱に刻まれた穴はそれほどまでに深刻になっていた。

方向転換スキルが発動しないまま、体当たりスキルが発動。

そのまま僕の体ごと、ハイエナガエルにぶつかった!


ーボンッ!ー

ハイエナガエルの腹部にその名の通り体当たりをした瞬間、ヤツのお腹が音を立てて破裂した。

当たったところが悪かったのか、このスキル自体が強力だったのか、ハイエナガエルは割れた風船のようにしぼんでしまった。

その場でうずくまるハイエナガエルだったが、すぐに動かなくなった。

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