第13話 ゴブリン以下か、ゴブリン以上か
俺が挑むべき相手――『ゴブリンでも受かる冒険者認定試験~筆記対策編~』その1ページ目を開く。
「…………ふむ」
見開き1ページ目はただの目次だった。
2ページ目を開く。冒険者について色々と書かれているみたいだ。
冒険者ランクは実力と実績に応じてS~Fの七段階に区切られているだとか、今はSランク冒険者は3人しかいないとかDランクの冒険者が一番多いとか、低ランク冒険者は危険だと認定された地域には立ち入ることが出来ないだとか受けられる依頼の種類に制限があるだとか、冒険者ランクの昇級試験に必要な手順や受験料や合格した際の登録料などその他色々なことが書かれてある。
「なるほど……」
はは……なんだ。読んでみれば普通に理解出来るじゃないか。
それによく考えたらファルの言っていたヤヌキナントカ草の調合問題も一見難しそうに聞こえるが、ただ暗記すればそれで済む話だ。
最初から怯える必要なんてどこにもなかったんだ。むしろ剣と魔法のファンタジーな世界で冒険者になるための勉強なんて興味のある項目だらけですぐに色々と覚えられそうなぐらいだ。
とりあえず今後の勉強に勢いをつける意味も込めて、まずは一番面白そうな箇所から勉強していくとしよう。ぱらぱらとページを捲って…………お、これだ「魔術の基礎」。せっかくのファンタジーな異世界なんだからこういうところ重点的に攻めていかないとな。ええと。
『魔族が用いる不思議な力である”魔法”を解析し、その結果を元に魔法に似た力を行使出来るように構成・術式化したものが私達の使う”魔術”となります』
『魔術の行使には構築された魔術陣が必須です。魔術陣に触れて魔力を流し込み、発動の鍵となる特定の言葉を口にすることで初めて魔術が発動します』
へぇ。この図に描かれてる魔法陣らしきものはこの世界じゃ魔術陣って呼ぶのか。この魔術の発動方法も中々面白そうだな。特定の言葉をキーにして魔術が発動する辺りなんて相当格好良いと思う。一体どうやれば魔術が使えるのか早く知りたいところだ。
『では魔術陣の描き方を、周囲を照らす光の基本魔術を例にして解説していきます』
と思ってたら早速きた。ここは試験的にも大事なところだと欄外で強調されているし、俺自身も魔術には非常に興味がある。じっくり読んで理解――。
『魔力∥サリエイテ’アトラエイス¬アトリビュノス⊥ソウラスエノス∃テウレスエノス∠パシロフリエンゲル これが魔術陣構築における公式であり、光の基本魔術の場合はここから――』
パタン。本を閉じた。
……………………何だ、今のは……?
聞いたことのない変な単語どころか、なんて読むのかすらもわからない機種依存文字みたいな変な記号が組み合わされていたぞ……?
本当に、今のがゴブリンにわかるっていうのか……?
棍棒と盾持ってグギとかグギャしか言わなかったゴブリンに……?
「本当にあんなゴブリン共にこれがわかるっていうのかよおおおおっ!?」
「ちょっとイトー? いきなりどうしたのよ」
「い、いやなんでもない。ちょっと気合いを入れてただけだ」
「そう……? まぁあなたが変なのはよく知ってるけど……ほどほどにね」
そうだ落ち着け冷静になれ。つい取り乱してしまったがまだ俺がゴブリン以下の雑魚と決まった訳ではない。もう一度よく読んでみれば案外すんなり理解出来る筈だ。
ペラペラと捲りながらさっきのページを探していると、気になる項目を発見した。
<いまさら人に聞けない基礎知識 ~魔術編~>
そう、これだよこれ。こういうのだよ。
この世界における常識的なことを何も知らない俺にはまさにピッタリだ。ここさえ読めばさっきの訳の解らない公式も読み解けるに違いない。どれ早速。
『魔術は不可解な現象である魔法を基にしていることもあり、専門的な知識が求められる場面がほとんどである。魔術陣の構築がその代表例だろう。サリエイテやパシロフリエンテの求め方は子供でも知っているような常識だが、実際に魔術陣を用いて魔術を発動するのであれば、魔術陣を描く媒体や属性の相性にも注意する必要がある。紙であれば属性値を下げた上でヨロシコノフエスコスを新たに組込む必要があり、鉄であればシロクママーにヨウシャスナイケンとインジャンゴスを、そこから更に属性を――」
パタン。本を閉じた。
常識だって……?
サイなんとかやパシロなんとかが常識だって……?
「あのゴブリン社会の中でも常識だって言うのかよおおおっ!?」
「………………あなた本当に大丈夫なのよね……?」
いかん。また取り乱してしまった落ち着こう。
……そうだな、ここはファルに聞いてみるか。なに、これだけ難解な箇所なんだ。きっと多くの冒険者の卵がここで躓いていることだろう。質問しても何も恥ではない筈だ。
「ちょっとここを見て欲しいんだが」
「魔術の基礎……? 私戦闘用の魔術は得意じゃないからこういうのはあまり……」
難しい顔をしてファルが本を読み始める。
ほら、やっぱりここは難所なんだ。良かった……わからないのは俺だけじゃ――。
「へぇ、これ凄くわかりやすいわね」
「ああ俺もそう言おうと思ってたんだ。丁寧だよなこの本」
わからないの俺だけでした。
しかも恥を忍んで教えを請うべきだったのにゴブリン以下だと思われたくない気持ちが邪魔をして、聞くに聞けなくなってしまった。
………………日本のサラリーマンの力……見せられるだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます