第14話 建物

事務所へと到着する。

タクシーから出る。

理想とは違う場所が其処にある。

昏上逢は、高層ビルの様な建物を想定していた。

だが違う。

其処は、二束三文で売られているかの様な廃棄ビルの様だ。

壁は塗装が剥げて地肌が見えている。

建物の硝子は割れていて、補修と言った様に段ボールで塞がれている。


「此処が、旧壱さんの、事務所、ですか?」


想像とは違う建物。

少しだけ、現実と言うものを見せられた気分だ。


「この間買ったばかりでね」


そう言って旧壱新多はビルの中に入る。

古い建物の内部は、電灯が切れていて、廊下が暗い。

少し、恐ろしさを感じる昏上逢。

旧壱新多は、気にする事無くエレベーターを使う。

エレベーターの中に入る二人、そのまま、三階へと向かっていく。


ゴウンと、時折左右に揺れるエレベーター。

ますます、彼女は心配そうになってくる。

そんな彼女の不安心を煽るかの様に、彼は口に煙草を銜えて微笑んだ。

エレベーターが開く。


「だから、まだ内装しか補修してないんだ」


いきなり、エレベーターは部屋に繋がっていた。

部屋の中から、冷房がエレベーターの中に入り込んで来た。

涼やかな風と共に、淡い光が部屋の中を包み込んだ。


「これが、事務所、ですか?」


薄暗い光、黒と紫を強調させた部屋の中。

其処は何処か、水商売で使われそうな、酔ってしまいそうな雰囲気を漂わす内装となっていた。


「ホスト狂いの友人に部屋の内装を頼んだらこうなった、まあ、少し暗いだけだけど、慣れたら面白いよ」


そんな事を言いながらカウンターへと向かっていき、冷蔵庫を開ける。

中には、ジュース類が補充されていた。

壁には、ワインやアルコール類のボトルが置かれている。


「カウンター辺りは少しだけ暑いな…」


そんな事を言いながら、旧壱新多は彼女にジュースを渡す。


「はい、どうぞ」


そう言って彼女にオレンジジュースを渡す。

それを受け取ると、彼女は適当な席に座って、ジュースに口を付ける。


「じゃあ、俺は少し仕事があるから、ゆっくりしててよ」


旧壱新多はそう言って、部屋の奥へと引っ込んでいく。

それと同時に、エレベーターが起動して、三階から一階、一階から三階へと上がっていく。

誰かが来る、そう思う昏上逢。

エレベーターが開くと、灰色の髪を伸ばした女性が入って来る。


「あら?」


部屋の中に入って来ると、即座に昏上逢に気が付いて歩み寄る。


「もしかして、新しい子?魔法使いさん、また可愛い子を捕まえて来ちゃって」


二十代前半程だろうか。

部屋に入って、昏上逢に挨拶をする。


「こんにちは、私、箕輪みのわさとりって言うの、貴方の名前は?」


その言葉に、彼女は挨拶をしようとして。

再び、エレベーターが動き出した。



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