第13話 退院
『
翌日になり、旧壱新多は退院した。
軽く伸びをした後に、ゆっくりと病院から出ていく。
彼の退院を待ちわびていたのは、昏上逢だった。
「退院おめでとうございます」
「あぁ、ありがとう」
そう言って旧壱新多は口に煙草を銜えた。
彼女が傍に居る為か、決して火を点ける事は無かった。
「雨、続きますね」
「そうだな」
旧壱新多は呑気にそう言いながらも、内心は不安げだ。
「(雨の日か…続くと怖いな)」
そんな事を考えながら、病院に付属されているタクシーを呼ぶ。
「折角だから、事務所にでも来る?」
旧壱新多は昏上逢にそう言った。
事務所。
旧壱新多は、シーカーだ。
シーカーの人間が事務所を持つと言う事は、それはつまり、その職業一つで仕事をしている、つまりは、ダンジョン攻略者として活動している、と言う意味だ。
「シーカーとは聞いていましたが、配属されている人だったんですね…けど、私が、部外者ですけど、入っても大丈夫なのでしょうか?」
タクシーに乗る二人。
心配そうにする彼女に、旧壱新多は笑う。
「大丈夫だよ、俺の事務所だから」
俺の事務所。
その言葉から察するに、どうやら旧壱新多が、その事務所の所長であるらしい。
「旧壱さんって、何歳なんですか?」
「俺は二十六だよ、まあ、事務所を持つとなると、少しだけ若く見えるかな?」
はは、と笑いながら旧壱新多は煙草を口で遊ばせる。
「俺の能力が、今の事業とうまく噛み合っててね」
「シーカーなんですよね?ダンジョン管理、とかしているんですか?」
そう聞くと、旧壱新多は頷く。
「基本的には、何でも屋、かな?、状況に応じて、俺が契約した魔法少女を派遣させる。直接的にダンジョン攻略はしないけど、個人資産で少しはダンジョン管理もしてるよ」
そう言った。
彼の言葉に、昏上逢は反応する。
「…私以外にも、魔法少女がいるんですか?」
何か寂しそうな表情を浮かべる。
「(この話は少し性急だったかな…けど、何れは話すべき事だ、今の内に知って貰わないとね)」
旧壱新多は、昏上逢の嫉妬心を見据えて、煙草を口から離す。
「勿論、魔法少女として契約したからと言って、キミも俺の事務所に入って貰おうとは思ってない、契約が完了すれば、後はキミの自由だからね」
「…いえ、別に、事務所に入るとか、そう言う話で気分が沈んでいたワケではありません…ただ、私以外にも、特別な人がいるんだな、って」
自分だけが特別扱いされていた。
そう思っていた分、他にも特別な存在を居ると知ると、彼女は悲しそうな表情を浮かべた。
「特別だよ、どういった経緯であれ、俺が選んだんだ。…それだけは後悔させない様に、徹しているから」
彼女の頭を撫でようとして、その手を、ゆっくりと彼女の頬に触れさせる。
「あ…」
暖かな掌が、彼女の頬に触れて、仄かに赤色が頬に灯った。
「だから、出来る事なら、離れないで欲しいよ」
本心の言葉を、旧壱新多は言うのだった。
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