第10話 帰院

旧壱新多は病室へと戻る。

未だ療養中の身である旧壱新多は、外出許可を貰っていたに過ぎない。

基本的にスキルと言う概念が存在するので、回復系のスキルを使用すれば、彼の傷は簡単に治る。

だが、それでは文明開化の遅れを取ると言う人間の思想があり、それが政府側に根強く残ってしまった。

回復系のアイテムは極力使わない様に、配布を禁止された。

ダンジョンを探索するシーカーのみの専用道具となり、また、回復系を使用するスキルホルダーも、緊急時、または崩落現象にて落ちた迷路迷子のみに対して使用以外は法律で禁じられている。

そうでもしなければ、多くの人間が路頭に迷う事になるだろうし、強力な力は秩序の崩壊にも繋がる。

更に付け加えれば、近年、人口は右肩上がりで上昇している。

崩落現象で落ちた迷子がモンスターに殺害される事例や、事故や殺人を考慮しても、徐々に上昇し続けている。

小さな島国である日本の人口が増え続ければ、経済が回る分、土地関係の問題や競争倍率の上昇などが懸念される。

本来ならば、病死や事故による不慮によって、少なくとも向こう百年はそう言った問題は先送りにされていたが、死亡者が少なくなった事で、本格的に懸念せざるを得ない。

そう言った問題は、表で言う事は無いが、法律で禁じられている以上は、そう言った思想も確かに存在するのは事実だった。


だから、病院で生活をする以上は、緊急事態による使用以外は、禁じられている。

彼が手術でアイテムやスキルホルダーがスキルを使用しなかったのはそう言った理由だ。

現在では、スキルと言う概念が確立されたのに、わざわざ体を傷つける様な真似など理解出来ないと言う考えを持つ者や、スキルと言う突発的に表れた代物が肉体に影響を及ぼすなど、明らかに異常だと、考えている者も居る。

何方も極論だと、旧壱新多は思うし、流れに身を任せれば良いとも思っている。


「あ、旧壱さん、お帰りですか?」


その様に声を掛けて来る女性の姿。

それは看護婦だった、ほのかにピンク色をした衣服を着込んでいる。


「はい、少しだけ」


「元気なのは良い事ですよ、けど。お腹に穴が開いてるのを塞いでいるので、無理しないで下さいね」


気を付けます、と。

旧壱新多は笑って挨拶を交わしてその場から去る。

病室へと戻って、旧壱新多は自らの腹部に手を添える。


「(お医者さんは確か…一週間で治ると言っていたか)」


現代の医療にしては早い方だ。

旧壱新多は横になりながら、目を瞑る。


「(少しだけ眠ろう…)」


そう思っていた矢先だった。


「旧壱さん、中庭に蒼いバラと赤いバラが咲きましたけど…これも、イベントの一つなのですか?」


昏上逢が旧壱新多の病室に入ると同時に聞いて来る。

彼は、その言葉を聞いてベッドがら顔を上げた。


「赤いバラと蒼いバラ…それは嬉しいイベントだ」


どうやら、それも旧壱新多のスキルである『魔女の契約者』による効力らしい。

早速、旧壱新多は薔薇の元へと向かい出した。


「此処か」


中庭には、数多くの花が咲いている。

その中で、赤いバラと蒼いバラの二つが咲いていた。

それを確認した旧壱新多は、後ろに立つ昏上逢に話し掛けた。


「どっちを選ぶ?」


そう聞いた。

昏上逢は迷った。


「あの…どちらを選ぶと、何か起こるのですか?」


その質問に対して、旧壱新多は頷く。


「あぁ、この薔薇はスキル強化を行ってくれる代物だ。どちらかを選べば、何方か一方のスキルが強化される。基本的に複数の薔薇が出てくるけど、今回は、キミの持つスキルの事情から二つだけらしい」


「…ちなみに、どちらを選ぶと、どちらのスキルが強化されるのですか?」


赤いバラと蒼いバラ。

何方を選んでも、どっちのスキルが強化されるかは分からない。

それとも、旧壱新多が何か知っているのかと思った。


「…こればかりは、運だね、どちらを選んでも、プラスになる事は確実だから、気楽に選ぶと良いよ」


そう言った。

選択権を昏上逢に渡す。

どうするか考える昏上逢。


「…では、こちらの、蒼いバラで」


昏上逢は、蒼いバラの方を選んだ。

旧壱新多は、一応、何故彼女が蒼いバラの方を選んだのか聞く。


「それを選んだ理由は?」


「あ、えっと…赤いバラは見た事ありますけど、蒼い方は、見た事が無くて、珍しいな、と思ったから、選びました」


彼女の説明に旧壱新多はそうか、と頷いて、蒼いバラの方に手を伸ばして、棘の生えた茎を折った。


「口を開けて」


昏上逢は、旧壱新多の言う言葉に何の疑いも無く、口を開く。


「んあ…」


蒼いバラを、彼女の口に傾ける。すると、蒼いバラの花びらから、一滴の雫が落ちる。

彼女は、その雫が口の中に入って、口を閉ざす。

咽喉を鳴らして、雫を飲み干した。


「…これで、どうなるのですか?」


「ちょっと待ってくれ」


旧壱新多はステータス画面を開いた。


『シルバーバレット』 LV.07

攻撃アタック/D(20)

防御ブロック/D(16)

敏捷クイック/C+(33)

器量スペック/D(15)

魔力マジック/C(21)


『職業』

/銃使いの魔法少女

『スキル』

/『秒読み取りカウントタップ

ランク:E

分類:予知系

説明:結末までの秒数を認識出来る

/『銃火帰巣性ワイパーアーツ』→『自動操銃オートロックオン

ランク:D →ランク:B

分類:操作系

説明:銃器から射出した弾丸の軌道を操作する。

説明:対象物に狙いを点ける事で、自動的に弾丸軌道を設定し、弾丸がその軌道通りに射出される。


『魔装杖』

/『バレルブレイズ・ロッククシューター』

銃火器の魔装杖。

ライフルの様に長いロングバレルが特徴的。


「(イベントで得たスキルの方が強化されたか)」


かなり強力なスキルとなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る