第3話 制圧


一瞬でゴブリンを倒したシルバーバレット。


「…ふぅ、終わりました」


振り向いて、旧壱新多に戦闘終了を伝える。


「強いな…中々、強い魔装杖を手に入れたな」


他にモンスターが居ないか、周囲を確認して、安全を確保した。

そして、改めて旧壱新多はシルバーバレットに話し掛ける。


「後になって悪いが、俺のスキルの説明をするぞ」


旧壱は自らのスキル説明をする。

彼女は重火器の魔装杖を持ちながら話を聞く。


「俺の能力は『対象者を魔法少女にして育成する』能力だ」


「育成…ですか?…私を育てるんですか?」


質問に旧壱新多は首を縦に振った。


「そうだ。この能力は、契約した対象者を育成する。育成完遂期間は三十日。一日一回、キミに対して何かしらのイベントが発生する。そしてステータスの強化、スキルの取得などが可能になる。デメリットとして、スキルホルダーのレベルは初期値に戻されてしまう、運が悪ければ、現在のステータスは低くなる可能性が生じてしまう」


それが彼女に対するデメリットであるらしい。

だが、シルバーバレットにとっては大したデメリットでは無いらしい。


「そのくらいは、デメリットにはなりませんよ、私、ダンジョンシーカーでは無いですから」


異世界の法則を受けた人間はレベルとステータスの概念が付属される。

レベルを上げるには、異世界生物であるモンスターを討伐する事で上昇する。

基本的にモンスターはダンジョンに生息している。

だから、ダンジョンに潜らなければならないが、ダンジョンに潜るには『探求者シーカー』にならなければならない。

かなり人気のある職業である為に、シーカーになれる人間は少ない。

なので、ダンジョンに入る機会など、こうして崩落現象に巻き込まれる事しかなかった。


「そうか…なら良かった」


旧壱新多は彼女のステータス画面を確認する。


「キミのレベルは3になっている。レベル1である時のポイントと、上がった時のポイントが合わせて3あるけど、キミはどれを伸ばしたい?」


基本的に、彼女の方針に合わせるつもりらしい。

シルバーバレットは考えるが、首を左右に振った。


「貴方に任せます」


「そうか…分かった」


旧壱新多はステータスを確認しながら黙考する。


「(銃撃系の魔装杖だから…、距離を詰められたら不利になる…敏捷に振っておこう)」


そう思い、旧壱新多は敏捷にポイントを割り振った。



『シルバーバレット』 LV.03

攻撃アタック/E(05)

防御ブロック/E(05)

敏捷クイック/E(05)→E(08)

器量スペック/E(05)

魔力マジック/E(05)


移動を開始する二人。

途中、口が寂しくなったのか。

旧壱新多はポケットから煙草を取り出して口に銜える。


「あの…」


シルバーバレットは、髪を揺らしながら彼に語り掛ける。

旧壱新多は立ち止まって後ろを振り向いた。


「あぁ…ごめんね。つい癖で」


唇で優しく食んだ煙草を離した。

喫煙者である彼に対して、シルバーバレットは首を左右に振る。


「いえ、別に、煙草を吸うなと言うワケでは」


彼女の父親も煙草を昔から吸っている。

だから、嫌悪感は無かった。


「そう…まあ、副流煙とかあるからね…」


煙草に火を点けず、ただ銜えるままで、旧壱新多は再び歩き出す。


「呼び止めたのは、煙草ではなくて…」


改めて、シルバーバレットは、旧壱新多に伺う。


「出口、分かるんですか?」


自らの庭であるかの様に歩き出す旧壱新多。

彼女は彼の後ろを歩いていたが、不安を覚えている。


「あぁ…適当に、ね」


どうやら、意味も無く歩いているらしい。


「あの…元の場所に戻りませんか?」


旧壱新多に提案するシルバーバレット。

学生である彼女は、崩落現象に遭遇した場合の対処法を学校側から教わっている。


「何もせずに、その場に留まって、救助を待てと、先生から言われてます」


「あー…学校ではそう教わってるのか…まあ、規範通りに教えるべきだけど…」


旧壱新多は振り向いた。

煙草を口から離して、彼女の目を見て言う。


「ダンジョンってのは災害で、モンスターも同じようなモン。その場でじっと留まれば生き残る事もあるし、その場から逃げ出せば、運良くダンジョンの入り口を見つける事が出来るかも知れない…救出速度が一番早いのは前者だけど、生存率が高いのは後者なんだよ」


「…?それって、どういう意味ですか?」


旧壱新多は指を上に向ける。


「俺たちは崩落現象で落ちて来た。穴は発生してから五分から十分程で塞がる、その間にシーカーが到着すれば、最低三十分程の時間で脱出出来る、けど。穴が塞がった場合は途端に死亡率が上昇する。教えを守ってその場に留まるから、モンスターに出会って殺されるんだ。キミを救ってモンスターと戦った時点で十分も過ぎている。穴は塞がっているし、シーカーが穴から落ちて来る事も無い…、そのまま、留まっていたらモンスターに出会って殺される可能性の方が大きかった、だから移動を選択したんだよ」


「そう、なんですか?」


無知であった事を恥じるシルバーバレット。

旧壱新多は再び煙草を口に銜えて前を歩く。


「勿論、理由はそれだけじゃない…移動しないと、出会わないからね…イベントに」


少し歩いて、旧壱新多とシルバーバレットは、広間に出た。


「来た…イベントが」


旧壱新多は、口元を緩めながら真正面を見詰めた。

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