才色兼備でクールな彼女は、僕だけに優しい

@Hinata0607

第1話 彼女の一面

 この僕――栗宮和樹くりみやかずきには彼女がいる。

 勉強も運動も出来て、才色兼備さいしょくけんび

 とてもクールで、少しカッコイイ。

 そして僕だけに優しい、甘えん坊。


 彼女の名前は――神田舞花かんだまいか




◇◇◇




神田かんださーん!」


「お、栗宮くりみやくんじゃないか。久しぶり」


「久しぶりって……一昨日おととい会ったばかりだよ!」


「出来ることなら毎日会いたいよ」


 高校二年の始業式。

 校門で待ち合わせていた彼女――神田かんださんと言葉をわす。

 彼女は落ち着いた声音で、クールに言ってのけた。

 僕の顔はすでに赤いだろう。


 “毎日会いたい”なんて平気な顔で言うんだもん!


栗宮くりみやくん、どうかした?」


「あ、いや、なんでもないよ。それより神田かんださん、やっぱり人気者だね」


 気がつけば辺りには人だかりが出来ていた。

 それはもう、身動きが取りにくい程に。


神田かんださん、久しぶり!』

『あの、写真撮ってもらってもいいですか?』

『おはよう神田かんださん』

神田かんだすわぁぁぁあんッッ! こっち見てぇぇえ!』


 やばい奴が混じっていたので牽制けんせい眼差まなざしを送っておこうッ!!


 ……それにしても。

 神田かんださんは、学年で知らない人などいないレベルの有名人だ。


 美人で、運動が出来て、頭も良い。

 なんでこんな凄い人が、僕の彼女なのだろう。

 僕にとっては高嶺たかねの花……というか。


 神田かんださんは迫り来る人たちに、クールに手を振って、


「栗宮くん、こっち」


「……あ、うん!」


 そう言われて手を引かれる。


 今気づいたけど、神田かんださんが僕の手をにぎっている!!

 温かい! 胸がドキドキして、鼓動こどうも早くなっている。あれ、もしかして僕の手が熱いだけ?


「まったく、可愛いんだから」


 いま何かつぶやいたよね!?

 イタズラな笑顔を浮かべながら“可愛い”って!


 頭が沸騰ふっとうしそうなほど胸を射抜いぬかれ、フラフラとしながらも、しっかりと彼女の手をにぎって校舎へと足を運んだ。


『ちぇ、今日も栗宮と一緒かよ〜』

『恵まれてんな、アイツ』

『それな〜ガチ羨ましい……』


 そんなこんなで、高校二年生としての学校生活が始まった。




◇◇◇




 昼食時間。

 屋上で神田かんださんと一緒に弁当を食べるのが、毎日の習慣だ。


 いつも色々な人に囲まれている神田かんださんと二人きりになれる、数少ない時間。


 ……今日は少し風が寒い。

 もう春とはいっても、まだ冬の寒さはわずかながらに残っている。


「やっぱりここが落ち着くね」


「そうだね。神田かんださんは人気者だから、いつも周りに人がいるもんね」


「でも、私はこの時間が一番好き」


「…………可愛い」


栗宮くりみやくんも」


 朝の仕返しかえしで“可愛い”って言い返したのに、まったく動揺どうようを見せずにカウンターしてきた!

 その表情は反則だ! 上目遣うわめづかいで見られたら……。


「ねえ、」


「ななな、なに!?」


 あわてていたせいで声が裏返ってしまった……。


「いつもの、やっていい?」


「い、いいよ……!」


 ああ、やっぱり神田かんださんは神田かんださんだ。


 “いつもの”をやるのだ。

 毎日の日課にっかとなっているアレを。


 僕がうなずくと、彼女はゆっくりと体を横にした。

 神田かんださん、耳が赤い。

 いつもはクールでいるけど、今はドキドキしているみたいだ。


「えっと、じゃあ、お、おお借りしましゅ」


「すごいんだね」


 神田かんだだけに、とは流石に言わなかった!


 やがて。

 神田かんださんの綺麗きれいな頭が、僕のひざに乗った。

 距離が近い。彼女からただよう良い香りが、僕の頭を混乱させる。いや、誘惑ゆうわく――と言った方がいいのか。


 つやのあるショートカットの髪に触れる。

 頭をでてやらないと、ムスッとほおふくららませてしまうからだ。


「本当に、みんなの前にいる時の神田かんださんとは別人みたいだよ」


「い、いいでしょ! ちょっとぐらい、私にも、甘えさせて……」


 静かに頭をでられるその姿は、猫みたいだった。いつもの神田さんとはまるで雰囲気が違う。


「ほら、もう気が済んだ?」


 言うと、神田かんださんは起き上がって、僕の方をじっと見つめてくる。そんなに見られると照れちゃう。


「えっと、あの……」


「え?」


「……その、」


 急にキョドりだした神田かんださんに、僕は首をかしげる。


「どうしたの? なんでも言って」


「…………それでは、お言葉に甘えて……」


「(こくり)」


「あーん、するので食べさせてくだしゃい!」


 盛大せいだいに噛んだな。思いっきり舌噛んじゃってる。


「だ、だいじょうぶ!?」


「い、いたい……」


 やはり彼女は甘えん坊だ。

 僕と二人きりになると、まるで人が変わったみたいに、すごく甘えてくる。

 それがとても可愛くて、いとおしくて、けられるのだ。


 しばらくすると痛みがおさまったのか、神田かんださんはもう一度お願いしてきた。


「ぜ、絶対にお米からお願いします!」


「何そのこだわりは!?」


「まずはお米からじゃないと心の準備が……」


「よくわからない……」


 はぁ……。

 これが学年一の人気をほこ神田舞花かんだまいかだと、誰が予想できるか。


「わかったよ。はい、あーんして」


「は、はいっ!」


 面接みたいにキレのある返事だな……。


 向き合うと、神田さんは口を開けた。

 綺麗な歯並はならびだ。桃色の口内を見て、ドキリとしてしまう。


 真っ白な歯に、赤みを帯びた舌……。

 なぜだか、いけないことをしているような背徳感はいとくかんがある……。


「あの、栗宮くりみやくん……?」


「ご、ごめん! お米いくよー!」


 ぱくり。


「やっぱり、栗宮くりみやくんに食べさせてもらったほうが何倍も美味しい」


「そ、それは何よりで……」


 一口あーんする度に鼓動こどうが早まるので、心臓に悪い……。すごく可愛いのだが、自分で食べてほしいものだ――――。




◇◇◇




 この僕――栗宮和樹くりみやかずきには彼女がいる。

 勉強も運動も出来て、才色兼備。

 とてもクールで、少しカッコイイ。


 そして、僕だけに甘えん坊。

 いつもは見せない一面が、どこまでも甘い。

 可愛い。

 


 そんな、甘えん坊な彼女の名前は――神田舞花かんだまいか


 学年一の人気を誇る、クール系美少女だ。



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