第5話  お弁当

「あっ!!!!!」

「どうしたの!? 海来みくるさん??」


 昼休み。急に隣で声を上げる海来さんに驚く。


「いやぁ……。そのぉ……」


 体を左右にフリフリさせながら上目使いで見てくる海来さんはすごく可愛いかった。

 見惚れていると好きになりそう。


「そのですね。お弁当を忘れたというか。持ってきてないと言いますか……」

「……。食べる?」

「いいの!!?!!」


 お弁当を差し出すと、瞳をキラキラ輝かせてご飯をもらった可愛いトイプードルのように弁当を食べ始めた。そして彼女には遠慮や躊躇といったことは一切なく、おかずの肉類を全て一瞬にして平らげた。


「海来さん。俺の弁当なくなったんだけど」

「だって食べていいって……」

「全部とは言ってないからね!!?」


 俺がそう言い放つと海来さんは『ごめんね』と可愛く謝る。


「そんなんじゃ、俺の弁当を全て食べた罪は消えないからね。今日は母さんが作った究極の冷凍唐揚げが入ってたのに……」

「冷凍唐揚げは作ったうちに入らないでしょ」

「レンジでチンしたらはいるんだよ」


 別に母さんがいつも弁当を手を抜いて作っているわけではないのだけど。俺はあの外はサクサク。中はジューシーな鶏肉の唐揚げがすごく好きだ。だから弁当に入ってる日はむちゃくちゃテンションが上がるし、生きていて良かったって思えるのだ。

 もちろん母さんが一から作った唐揚げも美味しいけど。


「そんな落ち込まないでよぉ」

「だって、俺の楽しみにしてた唐揚げ全部ぅぅぅぅぅわぁーーーうう」

「そんなに泣かなくても……。うーん、わかった!!私がお弁当作る!!」

「・・・・・え?」


 なんだって? クラスで一番可愛いこの子が、俺のために、俺のためだけに弁当を作る? おい、めぐみ。お前はラノベの読みすぎだ。そんなわけ……


「なにかお弁当に入れてほしいものとかある?」

「唐揚げでお願いします!」


 こんなことがあって俺は国宝レベルのむちゃ可愛い美少女にお弁当を作ってもらえることになった。






                ◆







 後日の昼休み。隣の海来さんの席の上にはお弁当袋が二つ並んでいる。

 あの中に唐揚げがあると思うとヨダレが出そうでたまらん。


 それにしても、海来さんは何を……


「ん!!??」


 ふと廊下を見ると、海来さんの横にむちゃくちゃイケメンな男子がニコニコしながら立っているではないか。これはもしや……


 ※妄想


『え? なに? あぁ、このお弁当は彼氏のやつ!』  

『それじゃあ、俺の弁当は?』

『え?? 昨日のこと本気にしてたの? 恵くんなんかに私が手作り弁当作るわけないじゃん』


 ってことだったり……。ありえる!!すごくありえる。

 あぁ、今日は海来さんが弁当を作って来てくれると思って母さんには作ってもらってないのに。一応、弁当頼んどけば良かったなぁ。


 廊下をダラぁと眺めていると俺が見ているのに気づいたのか、イケメンと話を終わらせてこっちに向かって来る。


「あのぉ、あのイケメンって海来さんの……」

「うん!!お兄ちゃん」

「はい? あぁ、だからイケメンなのか」


 海来さんに彼氏がいないことに何故かホッとした俺。

 別に嫌なわけじゃないはずなのに。あぁ、そうか。俺はあのイケメン兄ちゃんの顔に嫉妬したんだ。

 そんな脳内感情の考察に行き着いたところで、海来さんがお弁当袋を両手に持って差し出してきた。


「はい!お弁当!」

「い、いいんですか? 食べても後から訴えないでくださいね」

「いや、食い逃げ犯??」


 ナイスツッコミをもらい気分も気持ちよくなったところで弁当袋の結びを解いた。


 おぉ、弁当箱可愛い。そりゃ女の子だもんなぁ。


「美味しくないって言ったら今度から作らないよー」

「え!? 今度も作ってくれるの!?」

「あ、うん。でもたまにね!!」


 そして海来の眼差しを浴びながら、弁当箱の蓋を開けると、そこには色合いの奇麗な料理が敷き詰められていた。こんな美味しそうな弁当見たことがない。


「いただきます」

「え! 見た目の感想は?」

「見た目の感想までいる!?」

「だって……。頑張って作ったんだもん」

「ですよね」


 まぁ、こんなにも丁寧で高クオリティーな弁当を作ってくれたのだから、言ったほうがいいよな。


「すごく奇麗で美味しそうです」

「よろしい」


 そうしてまず最初に箸で挟んだのは唐揚げ。ギュッと力を入れると肉汁が溢れ出る。


「どう? 美味しい?」

「いや、まだ箸で唐揚げ掴んだだけですよ」

「はやくぅ!」

「……う、美味い。美少女で料理も上手だなんて。悔しい」

「やった!」


 海来さんは俺の反応を見て笑顔でガッツポーズした。その姿を見ていると悔しさも消え、可愛いらしい彼女に頬が緩んで見惚れてしまいそうになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クラスの可愛いお隣さんはいつも僕をからかってくる 星海ほたる @Mi510bunn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ