第11話 どんでん返しは起こりえない

 爆発と共にチャルドちゃんは全力で走り出す。

 そのスピードはかなりのもので、今から追っても追いつかれるのはかなり先だろう。


「で、君等は何者?気配の消し方とか普通じゃないけど…?」


「あ“〜!何でてめぇみてぇなバケモンがいんんだよここにぃ!アレの新しい主人は今は留守だってのにさぁ…」


 とても大きな声で、悪辣な笑顔を浮かべたおじさんが出てくる。

 口が裂けたかのように釣り上がり、目は細く、複数人の手下を連れている。


 先程の新しい主人とは姉さんのことだろうか?その言い方をするならばおそらく。


「お姉様の、あっこれじゃわからないか?ネルロさんの元お父さんってことかな?」


「はぁ…それもバレてんのか、面倒くせぇな」


 心底怠そうなのに、笑顔はやめない。

 しかし当たり、確実に嫌がってはいる。


「なぁ頼むよ、もう後がねぇんだわ俺ら。ネルロを俺に寄越せよ、そしたらお前らには何も手出しはしねぇから、な?」


「そうだねぇ、俺の魔法で洗脳した後なら渡しても良いけど…どう?」


「はっ、面白くねぇ冗談だな?調子のんなよメスガキィ〜!!」


 怒り心頭の様子で、俺を殺そうと突っ込んでくる。

 勝てるかどうかはわからない、実力的には勝っていても数が多すぎる。

 でも俺は勝てなくとも負けることはないと確信がある。



 なら選択肢は1つ。


「年取っただけの老害が、偉そうにすんなよなぁ!」



      ★


「ふっふっふっ」


 シェルが作ってくれた時間、もしそれがわずかでも私がなんとかしないと…。

 シェルの頑張りを無駄にするなんてできない、しちゃいけない…!


 ちらりと後ろを確認すると遥か遠くに人影、おそらく後数分も経てば追いつかれるはず。

 どうしよう、私に何ができるの?何も出来ないなんてあっていいはずないから、どうにかできるはず。

 あのシェルが勇気を出した、あのシェルがやる気を出した、あのシェルが…命をかけた。


「ふっふっ、ふぅ〜。はっ!」


 よりスピードを上げて少しの希望にかける。

 もしかしたら見失ってくれるかもしれない、そんな淡い希望だけどやらないよりはまし。


 可能性がゼロじゃない限り意味がないなんてはずがない。


 後ろを確認せずにひたすら走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って…走って。

 またちらりと後ろを見ると人影は一切見えなくなっていて。


「かひゅ〜、かひゅ〜、良か、った……追いつかれ、なかった」


 動悸は激しく、息はかすれて、喋るのはとぎれとぎれ。

 自分でもわかる、無理をしたと。

 それでも良かった、これでネルロを無事に返すことができる。

 後はフィネルのところに行ってシェルを助けてもらえば完璧。


 そう考えて顔を上げる、そしてすぐそこにある森の出口を見る。


「そんな…」


 考えが甘かった、計画が甘かった、私なんかでは何もできていなかった。

 そもそもが間違ってたんだ、追手はあの人達しかいないなんて…。


 そんな簡単に避けられるならネルロがこんなにもぐったりしてるはずがないんだから。


「諦めっ、ちゃ、だめだ…から…」


 それでも走る。

 気づかれていないかもしれないから、音には気をつけて。


 ひたすら、我武者羅に、無我夢中で、なんとかなるよう祈りながら。


 信じたこともない神に祈りを捧げる、出会ったこともない奇跡に思いを馳せて。


 偶然見失ってくれたら、たまたま気づいていなかったら、そんな希望とも呼べない細い糸を、目に見えない透明な運命(いんが)を手繰り寄せ…。



















「はい、みーつけた」


「られなかった…」


 そうだった。

 私ってとことん運が悪かったんだ…。

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