第10話 それぞれがそれぞれで

 姉さんがいなくなってから1時間。


「暇だ」


 姉さんがいるときは常に話しかけられるか隣にいたので暇になることはなかった。

 しかしいなくなると急に寂しく…いやいや、別にそんなことはないはすだ!


「姉さんがいなくたって別に…暇になるわけない。今まで俺ずっと一人だったし、前に戻っただけだし」


「シェル、そんなに暇なら一緒にいく?」


 そう話しかけてくれたのはチャルドちゃん。

 一月もあると流石に罪悪感もなくなったのか普通に話しかけてくれるようになった。


「今日は依頼をしに行くの?」


「ん、そう」


 いつもは家でダラダラとしていたので、付いて行くことはなかったのだが。

 久しぶりに二人と出かけるのも楽しいかもしれない、そう思いながら同行を決意する。


「なら今日は俺もいこうかな」


 そうと決まれば早速準備をしなければ、そう思い自分の部屋に直行するが。

 俺の用意するものなんて何もなかった事を思い出しトボトボとチャルドちゃんのところにとんぼ返りをする。


      ☆


「今日は外に薬草を取りに行くだけよ、そこまで気負うことはないけれど気は抜かずに行きましょ」


「はーい」


「ん」


 元気よく返事をしてお姉様の後ろを付いて行く。

 今回の探索ではそこまで深く入るわけではなく、浅いところで探すことになるらしい。


 森の周りをぐるりと周り、一旦の目星をつける。

 そしてここらへんだと見つけたスポットを重点的に採取する。


 その時にすべてを取り切るのはナンセンス、適度に取るのが重要なんだと教えられる。

 だから最初に全体を見て回っていくつもスポットを見つけておくのだという。

 そのほうがトータルの採取できる量が増えるそうだ。


「後数個取ったらここのスポットは終わりにしましょう。これ以上は取り過ぎになるわ」


 お姉様がそろそろ次の場所に移ろうと提案をした、その時だった。


「あ…れ…?」


 お姉様の体がふらりと揺れた。

 足に力が入らないのだろうか?ガクガクと震える膝は産まれたての子鹿のようで…。


「大丈夫…?」

 チャルドちゃんは速攻でお姉様を支え、倒れてしまわないように気を使う。


 俺はお姉様の様態も心配ではあったが、囲まれていると気づきそっちに集中する。


「チャルドちゃん、囲まれてる」


「え?」


 チャルドちゃんは呆けた表情になる、状況を深く理解できていないのだろう。

 それでも深く説明する時間はなく、とりあえずはお姉様とチャルドちゃんの安全が先。


「よく聞いて、あっちの森の奥に行く道の方向の敵をなるべく倒すから、お姉様を抱えて逃げて」


「そ、それじゃあシェルが…。私が残るからシェルが連れていけば」


 自己犠牲、残っても確実に負けるとわかっているのにチャルドちゃんはお姉様と俺を優先しようとする。

 危うい意識だが、今はそれを気にするほどの余裕はない。


「俺は大丈夫、それに俺の筋力じゃお姉様を抱えて逃げる何てできないから」


「そ、それなら私も残って…」


 完全にテンパってしまっていて、瞳がぐるぐるとしてしまっている。

 可哀想ではあるが、ここは俺よりもお姉様の体が第一。


「チャルドちゃん、俺よりもお姉様の方が大事でしょ?大丈夫だよ、死なないから」


「……ん」


 キュッと唇を噛み締め、覚悟を決めた表情、お姉様をしっかりと抱きしめた。


「GO!爆ぜろ」

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