第4話 癖になってんだ

「本当にありがとうございます…」


「いいのよ、貴方も多少は戦えそうだしね!」


 俺が驚くほどに叫びまくったせいでビビり散らかしていた受付のお姉さんも、お姉様の登場で少し落ち着いてくれて話はスムーズに流れた。


 そこでの話を要約すると。

 俺がお姉様のパーティーに入り、そこで経験を積めば一人での活動も許してくれるということらしい。

 最大限俺の望み通りになるように話をつけてくれたお姉様には、ほんとに頭が上がらない。


「宿屋のお金やご飯代までもらっちゃって…本当に足向けて寝られないです」


「大丈夫よ!その分しっかりと働いてもらうんだから、そんなに気にしないで?」


「マジ感謝です」


 2日分の宿代と今日の昼夜&明日の朝昼夜の飯代、合計して銀貨2枚も貰った。

 これはほんとに頑張らないと駄目な気がする、人として。


 銀貨2枚何て一日まるっと働いて、ようやく手に入るかどうかって金額なのに…。

 それをぽんと渡すとは、俺が信じられてるのか、それともお姉様がよほどお金持ちなのかのどちらか。


「それじゃあ明日の10時くらいにはギルドに来ておいてね?早速実践に入るから、心の準備も忘れずに」


「はい!了解です!!」


 そこで俺達は別れた。

 そしてそのまま宿屋を探しに行き、明日に備えてしっかりと寝ることにした。


      ★


 僕は部下から渡された報告書を読む。


「へぇ、兄さんは冒険者になったんだね」


 これはとても喜ばしいことだね。

 なんせあの兄さんが自分から仕事をし始めるなんて、今回の計画を立てて良かったと僕は心の底から思うよ。


「別に兄さんがあのまま働かなくても僕と結婚することになっただけだし、不利益になることは一つもなかったからやり得だったね」


 そのまま報告書を読み進めると、気になる名前が出てきた。


「ネルロ、兄さんはこの人と組んだんだね」


 兄さんが入るパーティーのリーダーを務めているミル・ネルロ。

 冒険者としてはまだ3年目の新人でありながらも、Bランクという高ランクに位置している期待のルーキー。


 それでもやはり素人、兄さんと比べると見劣りする実力。


「まぁ兄さんが知らないモンスターの情報とか知ってるだろうし、ちょうど良いかな」


 その他のパーティーメンバーは一人だけ、サブリーダーのサン・チャルドのみだね。

 彼女はとても勘が鋭いと言うことらしいけど…大丈夫かな?

 兄さんが元男だと気づかれなければ良いけど…。


「まぁ兄さんなら大丈夫だよね、なんとかなるでしょ。いや、もう姉さんか…でもこれだとややこしいし、今までどおり兄さんって呼べば良いかな」


      ★


「やべぇ、やべぇよぉ…」


 俺は今、とてつもない危機に見舞われている。

 それは何かって?


「もう11時だぁ!!!寝過ごした…怒られちゃう!何で起こしてくれなかったのさ!!って俺今一人か!はっはっはっはっは…はぁ」


 どうしよう、もういいかな?行かなくて、なんか面倒くさくなってきたし…トンズラするか?


「いやいやいやいや、それは駄目だろ!俺はそんなクズに落ちたつもりはない!間に合わないとしても行かなくちゃ…いけない…!」


 俺は速攻で宿屋を飛び出し、冒険者ギルドに向って突っ走った。

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