第2話 我武者羅に憂鬱
あのあと俺は我武者羅(がむしゃら)に逃げ回った。
普通に走ったり魔法を使ったり、ひたすら逃げてなんとか家からかなり離れた街に到着。
「ふぅ、ここまでくれば撒けただろ」
流石にこれだけ離れた街までくれば勝った、と完全に気を抜きのんきに歩いていると。
「おう姉ちゃん、可愛いな」
などとナンパをしている声が聞こえた。
へ〜、街だとこういうやつもいるんだなぁと考えていると。
「無視すんなよ」
と肩を叩かれた。
「え?俺?」
「そうだよ、なぁ俺と楽しいことしねぇか?姉ちゃん」
ニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべながら胸や足をチラチラと見てくるおじさん。
ふむ、何だこいつ。
変態か?白昼堂々と悪い遊びのお誘いとは…それも同性の相手に。
「はぁ、別に性の方向性は自由だけどね?俺に押し付けようとするのは感心しないよ?それともう少しムードというものが…」
「何変なこと言ってんだ?」
完全にポカンとした顔で“ちょっと頭のゆるい娘か?“という顔で俺を見てくるおじさん。
クッソこいつ話が通じねぇ、何なんだよまじで…。
いや待てよ、そうだった俺今女か!もしかして顔も女バージョンになってんのか…!?
俺のことだから随分と可愛いんだろうなぁ…、などと思考に耽っていると。
無視されていると感じたのかおじさんは逆上、俺に殴りかかってきた。
それに反撃しようと詠唱を開始したその時だった。
「待ちなさい!みっともないわよ貴方、断られたからって逆上するなんて」
俺を助けてくれようとする女性が一人。
見た目は美少女、しかし莫大な魔力を体内に感じる強者の風格。
「この人絶対強い…」
俺はそう確信せざるをえなかった。
「何だてめぇ?ってお前も可愛いじゃねぇ…か…」
威勢の良かった男も完全に萎縮し、語尾はかなり弱々しくなってしまっている。
一気にテンションは下落、人が変わったように大人しくなり。
「す、すんませんしたぁ!!」
と逃げていった。
「大丈夫?怖かったわよね、助けるのが遅くなってごめんなさいね?」
可憐な笑顔で優しい一言。
かっけぇぇ…何この人?俺より漢だよ、やべぇよ!見た目は可憐な美少女なのに物凄くかっこいい。
もはやこのギャップすらもかっこ良く感じる程だ。
この人はまさに、まさに!
「お姉様ぁぁぁ」
「へ?お姉様…?私が?」
☆
あのあとは困惑しているお姉様にしっかりとお礼を言い、しばし話を聞いたあとお別れをした。
その時に困ったことがあればいつでも言ってくれと、住んでいる宿屋を教えてくれた。
そのときに俺氏、気づきました。
「金がねぇ、宿屋に泊まる金どころか昼飯の代金すらねぇ」
そう、何も持たずに逃げてきてしまったのです。
恐怖のあまり気が動転していてこの俺としたことが…でも取りに帰ったら確実に弟がいる。
「詰んだ、働くしか道がない…働いたら負なのに!」
行かなければならないのか?冒険者ギルド
やらなければならないのか?労働
知らなければならないのか?お金の大切さ
憂愁(ゆうしゅう)だ…、圧倒的な憂鬱だ…。
俺は今日、世界に敗北する…俺はこれから、社会に揉まれて生きていかなければならない。
「ま、さっさと切り替えよ!楽で楽しい仕事が出来たら良いなぁ!」
ここから俺の自堕落でお気楽な悠久ライフが始まる!!
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