第5話
紺の道着を着た先輩は、切れ長の純和風の顔立ちがカッコよさを際立てていた。
ドキドキと高鳴る胸。
今まで、誰にも感じた事の無い感情に戸惑う。
目が…先輩を追ってしまう。
小さな身体と華奢な体躯だからこそ、パワーでは負けちゃうから隙の無い剣道になったんだろうと思う。
私の中で、ただの昔の競技が特別の競技になった瞬間だった。
愛ちゃんは見学の後、仮入部の紙を小野崎先輩に手渡し、どうやらそのまま入部するらしい。
「真海は入らないの?」
クラブ見学を終わらせて並んで歩いていると、愛ちゃんが呟いた。
「え!なんで?」
驚いて聞く私に、愛ちゃんはニヤニヤしながら
「だって真海、小島先輩ばっかり見てたじゃない?」
って言われてしまった。
「そ!そんな事無いよ!」
慌てる私に、愛ちゃんは両手で肩をぽんぽんと叩くと
「皆まで言うな……。真海の初恋、応援するよ!」
と言われてしまう。
恋なのか?ただの憧れなのか?
正直、私には分からなかった。
ただ分かったのは……小島先輩だけが、クラスの男子とも、他の大人びた先輩達とも……私には違って見えているって事。
そして、剣道をしていた小島先輩の姿に強く惹かれたという事だけだった。
「憧れだよ!そう!芸能人に憧れるのと一緒!」
必死に笑顔を作って反論する私に、愛ちゃんは私の顔を見て
「憧れ?だって真海、恋に堕ちたって顔してるよ」
そう言って微笑んだ。
恋に堕ちる──
私には、絶対に縁の無い言葉だと思っていた。
この日、どうやら私は、小島一郎先輩と出会って恋に堕ちた……らしい。
でも正直、私には「憧れ」と「好き」の違いがまだ分からなかった。
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