決勝戦
ようやく真っ黒焦げになった舞台の掃除も終わり俺とレストンの決勝戦の開始されることになった。
「長らくお待たせしました。それでは決勝戦ザウグレス=リームロック対レストン=トリリアの試合を行います」
決勝戦がお預け状態だったのもあって会場のボルテージは物凄く高い。
(大賢者及び並列意思複数起動)
レストンの持つスキル『大賢者』と「並列意思」が動き出す。「苦痛無効」のスキルがなければ当の昔に倒れているだろう。
(大賢者、並列意識の統率を頼む)
(解、並列意識を統率します)
すぐに並列意識たちが大賢者の指示の下動く。
ザウグレスがインフェルノを放ち、それに合わせてレストンが後退する。今度はレストンが、フリージングランスを10本ほどザウグレスに向かって放ち、さらに大賢者の、予測するザウグレスの回避ルートにテンペストカッターを飛ばす。
ザウグレスは「フン」と鼻で笑うとインフェルノウォールを展開する。氷の槍は溶けて消え、風の刃は炎が生み出す上昇気流によって方向をそらされる。
「全部バレてたのか……」
レストンはテンペストカッターにザウグレスに当たらなかったらブーメランのように戻ってくるような軌道を描かせることでザウグレスに当てようとした。しかしザウグレスに軌道をそらされたため当てることはできない。ザウグレスの持つ『直接干渉無効』のスキルのせいでザウグレスをターゲットにした魔法は使えないのだ。
「お前のことだ。何をやるかわからんからな」
レストンはなんとなく嫌な予感がしてその場から飛び退いた。直後、レストンのいた場所にダイヤモンドステークがつき出された。
「ったく。あと1秒とどまってくれれば良かったんだけどな」
そう言ってザウグレスが笑う。
「なんとなく嫌な予感がしたからね」
そう返しつつもレストンは内心冷や汗をかいていた。大賢者や並列意識たちにも悟らせないレベルで隠蔽された魔法だった。レストンとて、もう一度避けろと言われて避けれるかと聞かれたら「無理」と答えざるを得ない。
「まさか110門も隠蔽魔法に裂くとは思わなかったよ」
「へえ」
ザウグレスが愉しそうに笑う。
「アクアリアスボール!」
水の玉がザウグレスに向かって放たれる。無論ただの水の玉ではなく毒の入った水の玉だ。それがザウグレスの眼前で破裂しザウグレスに襲いかかる。ザウグレスは難なくそれを魔法障壁で防ぐ。
(本命は……こっちだ!)
ザウグレスの背後からレストンがインフェルノアローを放つ。相当な遠距離での魔法構築のため単発しか生み出すことができなかったが、それでもザウグレスの裏をかくには充分だと思われた。
しかし、それをすんでのところで察知したザウグレスは人外の動きでそれをかわしそれを利用してカウンターに出る。
「ミラー」
レストンの放った炎の矢が複製される。
「合わせ鏡」
1本が2本、2本が4本、4本が8本、8本が16本と次々に増えていく。最終的に増えた本数は2の10乗、つまり1024本。レストンの放ったはずのインフェルノアローが千倍以上になってレストンに牙を向く。
「メテオストライク」
同時にいつぞやのコボルドロードを倒伐のときに使われた魔法がレストンに向け放たれる。
(大賢者!落下予想!)
落ちる位置によってはインフェルノアローを防いでいる場合ではなくなる。いくらレストンでも魔王種をワンパンした未知数の魔法を魔法障壁で防ぐのは無理がある。
(告、落下中の隕石の直撃可能性は0%。落下予想地点は後方1メートルと推定されます。球形の魔法障壁を張ることを推奨します)
レストンは慌てて大賢者の言う通りに球形の魔法障壁を張る。インフェルノアローと隕石が同時に着弾し衝撃波が駆け抜ける。
「エクスプロージョン」
ザウグレスの足元が爆発した。レストンが小声で詠唱したのもあってザウグレスは気づかずいくつかの舞台の破片で額を切る。レストンも隕石の着弾時に破損した舞台の破片をくらっているため痛み分けだ。
ザウグレスのメテオストライクとレストンの爆発魔法の影響で土煙が当たり一面に立ち込め視界は最悪だ。
「無敵」
とレストンが小さくスキル名を詠いあげた。
***
「あの魔力効率の悪すぎるスキルを取ったのか」
俺は土煙で視界が悪い中レストンが小さく「無敵」と呟いたのに気がついた。おそらく俺に先に攻撃させてカウンターを決めるつもりなのだろう。
なら、攻撃した位置がわからないような魔法を使えばどうしようもあるまい。
「アースクエイク」
土属性最上位魔法。殺傷能力こそ他属性の最上位魔法に劣るものの建造物の破壊に関しては最強クラスの威力を誇る。最大震度7、マグニチュード約9.0。流石にここまでの威力にすると俺も立っていられないので軽く足を浮かせ、風魔法で周囲の土煙を吹き飛ばす。できるだけ範囲は絞ったつもりだがそれでも競技場全体が揺れており客席から悲鳴が聞こえる。まあせいぜいが震度4程度だろうし死人が出ることはないだろう。
「ヘルインフェルノ!」
舞台がオグトリバー戦の時のように火の海になる。俺に遅れること数秒でレストンも魔法を発動させる。
「ダイダルヴェイヴ」
火の海になった舞台を津波が消火していく。
***
「なにあの戦い……」
ミューレンとリアは一緒に観戦しながら呆然と呟いた。あまりミューレンは戦闘が好きではないが目の前で理解できないとんでもないことが起きているのだけはわかる。
「本当にあれってあたしたちと同じ学年なのかしら……」
魔法の展開速度、魔法の量、威力に速度など自分達の領域をはるかに越えたものがそこにあった。
2人がそう話す間にも戦況は刻一刻と変化していく。レストンの近くに何かが墜落して轟音をあげたと思ったら、今度はザウグレスの足元が爆発して土煙がたちこめる。かとおもったら地面が揺れ業火に包まれ津波が飲み込む。
「ミューレン、頑張ってね」
リアはミューレンの肩に手を置いていい笑みを浮かべた。
「もう……他人事だと思って……」
ミューレンはもうすぐあんなとんでもないのと同じクラスになるのだと気を引き締めた。
***
レストンがエトレートとは比べ物にならない速度でライトニングを展開して放ってくる。俺はそれをダイヤモンドウォールで受け止めるとインフェルノランスで反撃する。レストンはそれを難なく防ぐ。
やはり基本的な六属性のみでは決め手に欠けてくる。流石に原初属性には対応しようがないだろうがそれは意味がないし逃げでしかない。
全力全開でやってしまえばゴリ押せるだろうがそれも俺の為にならないし、何よりレストンのためにならない。
なに?本音を言えって?本音は手札をレストンに曝したくないだけだ。
「見えざる手」
「ザグ、残念だけどその魔法はもう見たよ」
そういうとレストンは泥を魔法で生成して当たり一面にぶちまけ、泥が見えざる手について可視化されていく。やっぱりこれをエトレート戦で見せたのは間違いだったな。
俺は氷の槍を風魔法と爆発魔法で超加速させて打ち出す。レストンは防げないと判断したのかそれを全てバックステップでかわした。やはり速い分コントロールができないのを見抜かれていたか。
「サンダーボルテックス」
レストンが雷属性最上位魔法で攻撃してくる。
「アイアンタワー」
俺は鉄の塔を高く高く作り上げ避雷針代わりにする。土属性の応用でまだ試験段階の魔法のため流石の俺でも多重行使は難しい。次撃たれたら流石に他の防御方法を取らないといけない。
「テンペストランス!」
俺は風の槍を100本ほど生み出すとそのうちの99本に多重隠蔽でレストンに魔力を悟らせないようにした。風属性魔法はそもそも透明に近いためわざわざ透明化の魔法をかけるまでもない。
そしてこれが現状の俺が取りうる最終手段である。これが決まらなければもう一段階か二段階力を出さなければキツくなる。決まってくれと俺は願いながらテンペストランスを打ち出した。
***
テンペストランス?詠唱込みで一本だけ?ザグが放った魔法を見て今までザグの練習に付き合ったりザグに稽古をつけてもらった身としてこんなことはまずあり得ない。
(大賢者、僕の推論はあっているのだろうか?)
(推論があっていると仮定して防いだときに考えられる魔法としては閃光での目眩ましか重力魔法での捕縛があります。故にマスターの考え通りに後ろに退避することをおすすめします)
僕は大賢者の予測を信じ後ろへ跳ぶ。しかし、僕は最後の最後で今までの自分の勘ではなく大賢者を頼ってしまった。
後ろへ跳んだ直後僕をとんでもない衝撃が貫いた。そう、何かしていたのは見えていた一本ではなく周囲のものだった。何発かが僕の体を貫いた。無論鮮血が飛び散るが「痛覚耐性」を持つ僕はほとんどいたくない。着地した僕はよろめきながらも治癒魔法で穴の空いた身体を治す。しかし失った血は戻らないため足元がかなりふらつく。
今さらさっきの判断を悔やむ必要はない。さっきはあれを正解だと思ったのだ。『大賢者』とて万能ではない。最後に自分を信じきらなかった僕が悪いのだ。だが、まだ勝負は終わっていない。
「カードの切り方は間違えないよ」
僕は並列意識たちに準備させていた術式を発動させる。
「地獄門」
黒い魔力の粒子が周囲を飲み込んでいった。
***
「地獄門」とレストンが詠唱したのを聞いて俺は耳を疑った。俺はレストンにこの魔法を教えていない。しかしたちこめる黒い魔力の粒子は紛れもなくこの地獄門がハッタリではないということを示している。
地獄門という魔法はそのまま使えば発動点を中心に周囲の数キロが壊滅する。あんなボロボロの状態でなお制御できているのは流石としか言いようがないが、制御できているのは効果範囲だけで威力自体は変わらない。そして周囲数キロを壊滅させるだけの火力がしたに収束されたらどうなるか?最低でもマントルの部分まで穴が開き、最悪星の核が壊れ星が原型を保てなくなる。実験用に作った星でやったから間違いない。
地獄門を止める手段は一つだけ。ほぼ同火力の魔法をぶつけ相殺する。それ以外にない。
俺は空に浮かび上がると魔力によって発生するエネルギーを槍の形に収束させて放つ天撃という魔法を選択した。
あり得ないほどのエネルギーが収束され空間がギシギシと歪む。
俺は地獄門の発動と同時に天撃を放つ。二つの魔法はぶつかり合い対消滅する。とんでもない爆発を起こして。うん。爆発で舞台が吹き飛ぶくらい問題ないよな。
「し、勝者、ザウグレス=リームロック!」
今までのように盛り上がることはなく会場はシンと静まり返っている。審判の人は何で生きてるんだろうとばかりに手足を眺める。それは俺が障壁を張ってたからとは間違っても口に出さないが。
……そういえば優勝したってことは入学式で挨拶しないといけないのか。面倒だな。俺は勝ちはしたが少し憂鬱な気分になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます