束の間の休息

俺の放ったヘルインフェルノによって舞台が真っ黒焦げになってしまったので決勝戦は掃除が終わってから昼食後ということになった。レストンは昼食をさっさと食べて最後の調整をするとか言ってどこかに行ってしまった。


「相手が悪すぎるよお……なんでよりによって初戦でレストンに当たるのさ」

「んなこと俺に言われても……単にお前のくじ運が悪かっただけだろ」


俺が初戦でエトレートと当たるようにしたのはわざとだがそれ以上はまったく干渉していないのでなんとも言えない。唯一可能性があるとすればレストンが何か仕掛けたのだろうか?……あり得るな。あいつのことだアリスが変に暴れないように自分で確実に潰したのかもしれない。真偽を聞いたところでレストンは答えないだろうが。


「じゃ、俺も食後の散歩に行ってくるかな」

「どこに行くの?」

「ちょっと森まで」

「待てい!どこの森じゃいー!」


まったく……森と言えばノクターン大森林に決まっているだろ。


「あ、いたいた。おーいザウグレスくーん」


一瞬母さんかと思ったがここは保護者立ち入り禁止なので来るわけがない。やってきたのはミューレンとリアだった。ちくしょう。2人のせいでうかつに森に行けなくなった。……まあいいか、別に毎日竜と戯れることもないだろう。


「いや~凄かったね。あの魔法なにさ?舞台が真っ黒焦げになったんだけど」

「ん?見たこと無いか?火属性最上位の魔法だけど」

「「はあ!?」」


ミューレンとリアが大きな声を上げて後ずさる。


「さ、最上位って……魔法師団が中隊規模で撃つ戦略級魔法だよ?」


そうなのか?母さんが1人で撃ってたから普通なのかと思ってた。いや、あれを普通にするのは間違ってるか。なんせ魔王殺しの英雄だからな。ミャーマ曰く現代の魔王は昔ほど強くはないらしいが、人間より強いのは確実だろう。


「そういえばリアはAクラスじゃないのか?筆記は相当とってただろ?」

「嫌味かしら?首席さん?実技が悪かったのよ。ミューは実技そこそこできてるからAクラス行くだろうなって思って真剣に理論叩き込んだけど無理だったのよ」

「なるほどな。それでもBクラスだろ?十分凄いだろ」

「どうも。こっちのミューレンはAクラスだから、よろしくね?」

「よ、よろしくってどういうことよリア!」

「どういうって、そのままだよ~ほれほれ」


リアは肘でミューレンの脇腹をツンツンとつつく。つつかれている当の本人はあたふたして顔を赤く染めている。


確かにミューレンと同じクラスというのは嬉しいし好都合だ多分ミューレンがルミだろうから。でもタイミングが悪かった。後ろにいるアリスが怨嗟の言葉をぐちぐち呟いてるからな。


「なんでみんなあたしよりも胸が大きいのかしら」


ヤバい。案の定アリスが鬱モードに入った。そしてこの後は……


「なんじゃあ!?胸の大きさを自慢しにきたんかあ!」

「ひええええ!?」


何故か理不尽な怒りを爆発させるのだ。ミューレンが体を抱いて後退りする。流石にこれ以上は危ない気がしてきた。


「あ、悪い。手が滑った」

「ふにゃん!?」


アリスが変な声を上げてばたりと倒れる。なんでこいつは気を失ってもまともに受け身がとれるのか、そろそろ謎になってきたな。


「あのー……失礼ですけど……昔どこかでお会いしたことがありませんか?」

「?俺はずっとノベリスク領で暮らしていたので……ノベリスク領に来たことがあるんですか?」

「あ、いや……それなら気のせいです。すみません」


少しミューレンが肩を落とす。会ったことがないと言えば嘘になるだろう。ただし前世で。


「んじゃ、俺は散歩に行ってくるかな。と、その前に」


俺はアリスの両手両足を拘束し猿ぐつわを噛ませる。


「ちょちょ……何もそこまでしなくても」


リアが信じられないものを見たといった風な目で見てきた。


「こうでもしとかんとこの会場にいる女性全員を襲いかねんからなこいつは」


何故かアリスは巨乳に過剰反応する節がある。そして大抵過剰反応した後は大体とんでもないことをしでかす。会場中に毒なんかばらまいた日には合格の前に警備隊に御用されるだろう。それは流石に友として見過ごすことはできない。


「まあ、念のためこいつのまわりには近づかない方がいい」

「なんかよくわからないけどわかったわ」

「へ、へぇ」


俺は最後にアリスを柱に縛り付けると、苦笑いする2人をよそに俺は散歩に出かけた。

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