誕生
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
その日、とある星の家庭に一人の赤ん坊が生まれた。
「エリス!生まれたのか!」
「お母さん!男の子?女の子?」
「元気な男の子よ」
エリスと呼ばれた女性は慈愛の籠った目で赤ん坊を見つめた。
「ねえ、お母さん。この子の名前はなんていうの?」
「ふふ。もう決めてあるわよ。この子の名前はザウグレス。ザウグレス=リームロックよ」
のちに世界最強の神と呼ばれることとなるザウグレスの誕生の瞬間だった。
***
あれから三年が経ち俺は三歳になった。え?自我がある癖に三年間どうしてたって?はっはっは。俺がおとなしくしているわけがないだろう。魔法で身代わりを作ってもらって別空間でミャーマという人物に魔法やらなんやらを教わったりしていた。
「ザグ~ご飯よ~」
「あ~い」
だめだ。まだ舌が発達して無いのでしゃべりづらい。舌だけを急激に発達させることもできるが、それはそれで不自然なのでやめておいた。
「ねえねえおかあさん、みて」
俺は森に入ったら襲ってきたイノシシをお母さんに見せた。一応命は絶ってあるので問題ない。お母さんは俺が異空間収納を使ったことに目を白黒させていたが、すぐに笑顔を浮かべると頭を撫でて褒めてくれた。
「それじゃあ夕食はお肉にしましょうね」
「わーいおにく」
ちなみに俺はお母さんとお父さんとついでにお姉ちゃんと住んでいる。母さんが所有しているらしい山の頂上に家はあり、周囲は森で囲まれており遊び場所には困らない。ちょくちょく魔物や野生動物が出たりするが、その程度なら俺の遊び相手にしかならない。
なんでもお母さんとお父さんは俺が産まれるまでは凄腕の冒険者だったらしい。何でも学生時代につるんでいた四人組パーティーで魔王を討伐し勲章を貰ったが、当人はあまり騒がれるのが嫌がったようで王都からこんな辺境の山奥に引っ越してきたらしい。ちなみにこの森というか山そのものが母さんの所有物なので、森の中で何をやらかしても怒られることがないのでよく森を駆け回っている。
「ザグ~元気にしとったか?」
「びるじいちゃん!」
「見ないうちに随分と大きくなったのう」
「えへへ」
「はっはっは。剣鬼殿もすっかり年老いたようで」
「なんじゃ若造。少し痛い目にあいたいようじゃの」
俺の目の前で殺気をバチバチとぶつけあう二人。殺意のベクトルがこちらに向かないとわかっていても怖いものは怖い。
「あら、ビル爺にノストラ。お昼食べてく?」
そんな状況にも臆せずに母さんは二人に「お昼食べる?」と尋ねる。いや、流石に強心臓過ぎるだろ。
「じゃあもらおうか」
「いただくとしようかのう」
いや、二人とも食べるんかい。というか、そんな話聞いてたら俺も腹へった。
「やはりその喋り方、似合いませんな」
「ぶっ殺すぞ?」
「こらこら二人とも、そんな物騒な話しないの」
「ただいま~お腹空いたよう」
そこにお姉ちゃんのエリーが小等学院から帰って来た。
「え?何この空気」
お姉ちゃんはノストラおじさんとビルじいちゃんの剣幕に押され何歩か後ずさる。そりゃそうだ。俺は怖いっちゃ怖いけど流れ弾が飛んできてもどうにかする自信はある。だけどお姉ちゃんは一般人だ。ノストラおじさんは昔のお母さんのパーティーメンバーだし、ビル爺は《剣鬼》って呼ばれる凄腕の剣士だ。今は二人とも戦いから遠ざかっているらしいけど、それでも十分な実力を持っているのには違いないだろう。
「こ~ら、二人とも、やめなさい」
「そういえばエリス殿も丸くなりましたな」
うんうんとビルじいちゃんもうなずく。
「そうなの?」
「ほっほっほ。そうじゃよ。昔なんか帝国の街ひとつをガチギレして氷づけにしたこともあるからの」
「そうなの?」
「……若気の至りね」
お母さんが目をそらす。マジでやっちゃったらしい。街一つ氷漬けかぁ、どのくらいの広さの街をやったのかは知らないけど魔力の無駄だなぁ。
「あ、ザグだ。ただいまーっ!」
「おかえり、エリーおねえty――」
俺はお姉ちゃんと言おうと思ったら抱き着かれてまだ成長途中とはいえそこそこ大きな胸に口をふさがれた。
この世界の人間は総じて早熟で、地球の人間とは違い第二次性徴がだいたい7~8歳くらいで始まったり、早い者ではすでに終わっている者もいるようだ。なので成人が12歳とかそんなものだったか。家にある本を読んだ知識でしかないため何とも言えないが。おっと、解説をしている場合ではなかった。さすがにこれは窒息死する。姉のおっぱいで窒息死とあっては流石に笑えない。
「んー!んー!」
「エリー!ザグ息ができてない!」
「え!?ウソ!ごめんね」
はあ、はあ、と俺は荒い息を繰り返した。
「エリー、手を洗ってきなさい。お昼にするわよ」
「は~い」
はあ……お母さん、エリーお姉ちゃんに魔法を教える前に人を抱き締めて殺さないように教えてあげた方がいいと思う。毎日これでは正直しんどい。俺、このままだと大人になる前に死ぬ気がする。
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