落ち行く体

 「ねえ、悠斗、そろそろ起きなよ。もうお昼だよ」


朝同様ルミは悠斗を揺さぶっていた。さすがに公衆(クラスメイト)の目もあるこの場所でルミも朝言ったようなことを言う勇気はない。悠斗は先生に何をされても全く起きず、午前中の授業をすべて睡眠へと費やした。


「うあ……おはよう」


悠斗は寝ぼけて昼だというのに朝の挨拶をした。悠斗は目をこすりながら周りを見てすでに昼になったことに気が付いたのかしまったという顔になった。


「しまった。今日の数Ⅰの授業を寝過ごしたか……」

「ねえ、悠斗お昼だし屋上にいこ?」

「ああ……うん」


悠斗は酔っぱらったかのような千鳥足でルミと一緒に屋上へと上がった。


「はいコレ。いつもの」

「ありがと」


悠斗はルミからコロッケサンドを受け取る。弁当の有無にかかわらず悠斗はコロッケサンドを必ず食べる。ルミはたまごサンドを取り出すとフェンスによりかかった。そこから数秒は悠斗にとって物凄く遅く感じられた。ルミの寄り掛かったフェンスはゆっくりと倒れていき、それと一緒にルミの身体もフェンスの向こう側へと傾いていった。


「ルミ!」


遠ざかっていくルミを追いかけて悠斗は身を乗り出してルミの小さな手をつかむ。しかし、非力な悠斗ではルミの体重すら支えることはできず地面へ向けて二人そろって落下する。悠斗にそこから先の記憶はない。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る