第4話 逃走というタイトルだが逃走シーンは一瞬です。

「やっと起きたか、逃げるぞ!」


 眼を開けてすぐ刃物を持った赤髪の少年が私に向かってそんなことを言ってきた。少年に手を引かれ私は起き上がる。少年がナイフなんか持って一体なんの騒ぎだろう。

「こっち!」

 言われるがままに引っ張られ私はお寺の外へ連れ出される。焦げ臭い匂いがして振り返ると建物から煙が立ち上っているのが見えた。敷地内の建物は半壊、坊主たちは叫び走り回っている。まさに地獄絵図、テロリストから襲撃を受けたという言葉が一番しっくりくる。

「これ、君がやったの?」

 私は浮かんだ疑問を口に出してしまっていた。

 彼は口を開かない。

 ただじっと煙を見つめていた。


 その瞬間大きな爆発音がした、その音をきっかけに私は少年に抱えられる。足をすくわれ頭を抱えられる、お姫様抱っこというやつだ。お姫様抱っこされちゃったよ、弟よりも年下に見えるその少年に。彼がすごい勢いで走るので振り落とされまいと必死にしがみつく。風でなびく髪の毛が目に入るのでぎゅっとつぶる。


 体に当たる風が痛い、一体どれくらいのスピードで走っているのだろうか。絶対この年の少年が出していいスピードではない、法定速度を明らかに超えてる。目は開けたくても開けられない、よって景色を描写できない。本当に申し訳ないと思っている。水の匂いと湿った土を踏む音くらいしか私の体はキャッチしていない。

「もういいぞ」

 そうぶっきらぼうに言い放つと少年は私を腕からおろして座り込んだ。いつの間にか私たちは洞窟の中にいた。

「災難だったな」

 それはそうだ、急に起こされて謎の少年にさらわれてこんなところまで連れてこられたのだ災難以外の何者でもない。

「違う、狐色宗こしきしゅうに捕まったことだ」

 疑問符を浮かべる私にあきれながらも彼は説明を続ける。

「あいつらは魔力が強い少女を捕まえて生贄にしたり魔力を搾り取る素材にする奴らだ。身寄りのなさそうな若い女に甘い言葉をかけ食事を提供することで安心させる。でも食事には薬が入ってる、睡眠薬がな。そして眠らされて生贄にさせられるか地下に閉じ込めて労働を強いるかのどちらか。ほら、あそこにいるのが連れ去られた奴らだ。みんな髪の色が明るいだろ、魔力が強いやつは髪色が明るい、それくらいは流石にしってるよな」

 見ると確かに髪の毛の色素が薄い子たちばかりだ。薄茶に水色、黄色に白髪の子までいた。

「いやでも私だよ?」

「は?どうみてもだぞ?周りから何も言われなかったのか?」

 少年はきょとんとした表情をする。彼は嘘は言っていないように感じる。わたしが変なことを言ったみたいになってしまった。

 赤毛の少年は、はぁとため息をついて立ち上がる。そして

「キョウ!手伝ってくれ」

 と人を呼んだ。キョウと呼ばれて、こちらへやって来たのはメガネの少女だった。

「何?」

「鏡を作ってほしい」

「わかった」

 そういうと彼女は近くの泉に手を突っ込んだ。すると途端にさっきまで音を立てて滴っていた雫は時を止めたように落ちてこなくなり、完全に波紋が止まる。凪より凪いでいるその水面はまるで鏡のようだった。

「ほら」

 促されるまま私は泉をのぞき込む。


「あ」


 染めた記憶も何もないが確かに私の髪は昨日より遥かに明るくなっていた。

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