第3話 夢という名の回想

 安心したのか私は急な眠気に襲われた。


 畳の香りがが心地いい。


 お母さんの声がする。


 私を呼んでいる声が、目の前にはお母さんが呆れた顔で立っている。


あや!」

 思わずびくんと体が跳ねる。

「あんた、相変わらずボーっとして私の話聞いてる?」

「あぁ聞いてる聞いてる」

 私は咄嗟に適当な返事をする。

「じゃあお母さんがなんて言ったか言える?」

 私は固まった、それはそうだ聞いてるはずがない私は、私は…

「私って今何しようとしてたっけ?」

「漫画買いに行くんでしょ、自分がやろうとしてたことも忘れちゃうってどんだけマイペースなのよ」

「ねぇちゃんはアホだからね!」

 弟が余計な茶々を入れてくる

「あんたは黙ってて!」

 と言い返す。そうだ、今から書店に行くのだ。昨日発売の大人気漫画【齢の甲】の新刊を買いに行くという予定がしっかりあるじゃないか。ん、待てよそれとお母さんの話は何の関係があるんだ。どこにそんな因果があるのだろうか。

「で、それとお母さんに何の関係があるの?」

 と言う私は苛立ちを隠せていなかった。もうちょっと優しく言えば良かったと今では反省している。

「買い物行くなら玉ねぎ買ってきてってさっき言ったばっかりじゃない」

「あー新玉ねぎの話してたねそういえば」

 昨晩、父が新玉ねぎが食べたいと言っていたことを思い出す。父は新玉ねぎとか新じゃがとか春キャベツみたいな季節限定の野菜が好きで毎年この時期になると大人げなく食べたいと駄々をこねる。今朝も新玉ねぎ、新玉ねぎ…とつぶやきながら休日出勤していった。

「分かった新たま買ってくればいいのね」

「よろしくね」

「間違えて長ネギ買ってくるなよー!」

「私はそんなに馬鹿じゃありませーん!」

 まったく生意気な弟だ。お姉ちゃんが大人でよかったな。


 流石に玉ねぎを持って書店に行くわけにも行かないので私は先に書店に行くことにした。いつものように自動ドアをくぐり漫画コーナーへ足を伸ばす。筈が床がない。気が付くと目の前に本屋は無く真っ暗闇に私は放り出された。

 急な落下感が私を襲う。

 底の見えない暗い穴の下にどんどん落ちていく、


 落ちていく


 落ちて


 暗くて


 黒くて


 上から何か聞こえる、


 誰?


 誰の声?


 気持ち悪い声も心地よい声もする。この特異な状況に私はようやくこれが夢だと気づく、気づいたせいか落下感のせいか私は目を覚ます。


「やっと起きたか、逃げるぞ!」

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