第2話 坊主が上手に餃子に醤油とラー油と酢をかけた。
私を救ったのは神だった。彼が言うにはそういう事らしい神があなたを見捨てなかったのですなんて言って立ち尽くす私をここまで連れてきた。
「何かあったのですか?お体の加減はいかがですか」
坊主頭の白装束が私に話しかけてきた。
お坊さんといえば黒い服装を思い浮かべるが、仏教というわけでもなさそうだ。
しかし頭を丸めているので私にはどうしても仏教徒にしか見えない。
「あ・・・いえ。あはは」
漂白されたような衣服を身にまとったハゲに優しくされたことは私の人生で初めての出来事なので大分戸惑ってしまっている。
「なにかあれば何なりとお申し付けください」
「あ、そうですか・・・ありがとうござます」
「では」
と言ってその僧侶は私から離れて行った。
訳も分からず彷徨っていた私に声をかけたのが彼だった。袈裟というには華美な白い装束を身に包み、髪の毛の一本も見えない丸い頭のニコニコ笑顔の絶えない20代後半の、いかにも誠実そうな男性だ。
それはもう親切にしてくれた、してくれていると言ったほうがいいのかもしれない。現在私は手持ち無沙汰というかなんというか、気もそぞろというか、暇だ。
一言でいうと暇である。今の状況的に何もしないほうが良いのだろうとは思うが、元の世界に帰りたいという思いからか非常に心もとない。
「お腹すきませんか?」
「はい?」
気づくとお皿に彩りよく盛り付けられた料理が一人前、目の前に。
「食べていいんですか?」
「えぇ、勿論ですとも」
言われるがまま私は目の前の料理に箸をつける。恐る恐る油揚げのようなものを取り上げ口に入れる。美味しい。甘辛い出汁が良く染み込んでいて私の緊張をほぐしてくれた。私はここにきて初めての温かい食事にほだされて、なんだか急に空腹が押し寄せる。それから私は息をするのも忘れるくらい夢中になってお皿の上から色彩を奪い続けた。
良く染みた油揚げに程よく胡麻のようなものが和えられたインゲン。青さと香ばしさのバランスがちょうどいい。お米はサツマイモのようなものと一緒に炊き込まれていて黄金色のホクホクとした触感の芋とお米のもちもちはまるで二重奏だ。さらに驚くべきはこの刺身、臭みがなく、ローズクオーツのような薄桃からは想像できないほどうまみが凝縮されている。青銅色の海藻とサラダ仕立てにされていて私の色彩感覚的には美味しそうに見えはしないが、口に入れるとその美味しさに偏見を打ち砕かれる。無我夢中で食べ続け、爽やかでどこかツンとする不思議な味のお茶を最後に飲み干し私は食事を終える。私が感謝を伝えると彼はゆっくりしていてくださいと言って部屋を出て行った。
「私は準備をしてきますので」
準備?何の?疑問は残るが悪い人たちではないみたいだ。日本でもお寺でご飯を食べられる支援みたいなのしてるって聞いたことあるし大丈夫でしょ。
きっと。
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