異世界グルメ放浪記
望月朔菜
序章 いわゆるプロローグ
第1話 唐突な導入
「ここ、どこ・・・!?」
拝啓、お母さんお父さん、あと弟。私は今見たことも無い景色を前に呆然としています。この状況を上手く呑み込めません。
何故なら、不意にこの謎の場所に居たからです。と言っても場所に驚いているわけではありません。急に居場所が変わったことに驚いております。
父母におきましては、お二人もこんな経験したことがないでしょうが、よろしければ助言など頂けると幸いです。
早春の息吹を感じる昨今、どうぞお健やかにお過ごしください。
敬具
さて、どうしたものか。
私は今日、休日を利用しとある人気漫画の新刊を手に入れようと近所の書店に赴いていた。そんな矢先の出来事だった。
書店の自動ドアをくぐると、見慣れない景色が目の中に飛び込んできたのだ。
私が望んだ漫画の新刊はおろか、本棚も書店員さんすらもここにはなかった。
上を見上げると青空がひろがり、忌々しいくらいに太陽が照っている。
本屋独特のあの匂いも、春も近いのにまだ暖房が効いている店内もここには無い。
「よし、一旦落ち着こう」
口に出して、何とか自分に言い聞かせる。深呼吸をして辺りを見渡すと、そこはまるで江戸時代のようだった。江戸の景色というものを実際に見たことはないが、タイムスリップする本やドラマで見たような、和風な街並みが広がっていた。
もしかしてタイムスリップしたのだろうか。
しかし聞こえてくる会話がおよそ江戸時代とは思えないものだ。
「魔石は如何かなー!」
「大陸の方で龍が目を覚ましたって」
「でも私達には関係ないね」
「このあいだくれた薬草効いたよ」
なんて、ファンタジーな会話が繰り広げられている。
『異世界転生』そんな言葉が私の脳内にふと浮かぶ。いや、現実にそんなことがあるのだろうか。あってほしくない。あってたまるか。おかしいだろ。もし、もし異世界転生なのなら誰か、神様?仏様?世界の創造主?誰でもいいから返してくれ、私の元居た世界に。
もしかしたら、後ろに振り返ったら自動ドアがあってそこから帰れるかもしれない。そうだ、きっとそうだ。これは何かの間違いで、私は春の陽気で幻覚を見ているだけかもしれない。知らない場所に飛ばされるよりそっちの方がずっといい。
そんなことを考えながら後ろを振り返る。しかしそこには私の望んだ自動ドアなんて存在していなかった。見慣れない、かつこの景色にもマッチしていない西洋風な扉があるだけだ。
「おい!嬢ちゃん」
その声は、途方に暮れる私の意識を目の前に戻した。
「え?」
声のした方を向くと二人組の男が怪訝そうにこちらを見ている。
一人は赤紫がかった短髪の男で重そうな甲冑のようなものを付けている。
もう一人は肩にかからない程度に伸ばした薄紫色の髪から、ぱっと見女性に見えるが、顔つきや体格から男性だということが分かる。
それにしても、この二人はどうして私に声をかけてきたのだろうか。
驚く私に長髪の男が声をかける。
「そこで突っ立ってられると僕たち入れないんだけど・・・」
「あ、すいませんっ」
慌てて扉の前から身を引く。
どうやら、私ではなくこの扉の向こうに用事があったらしい。
「すまねぇな、お嬢ちゃん」
「気をつけてね」
彼らは一言そういって扉の向こうへ消えていった。
「・・・・・・」
私はまた一人になった。
厳密に言えば彼らには扉の前から退いてください、と言われただけなので。最初から最後まで一人なのだが。
それでも、全くの孤独よりは安心できた。
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