第8話 彼女にしてやれること
俺は例の女の子と出会った後はもう公園には行かなくなった。
あまりに重すぎて、これ以上自分の手に負えないとわかったからだ。
DQNの家庭を他人がどうこうすることはできない。
白アリの食ってる家みたいだ。
親を排除しない限りは、更生できない。
しかし、それを他人がやることは無理だ。
最後に公園に行って数日後、知らない番号から電話がかかってきた。市外局番からして、もしや・・・警察かと思った。
「○○警察署の〇〇です」
若い感じだったから、この間の人だろう。
「はい」
女の子が見つかったんだ・・・。よかった。俺は安堵した。
「この間、お話伺った件で・・・」
「はい。あの後、どうでしたか?」
「もっと詳しくお話を伺いたいのですが・・・警察にお越しいただけませんか?」
「はぁ。あの子に何かあったんですか?」
「いえ。それはちょっと。その時にお話しますので」
俺はそろそろ会社を休みたかったから、快く警察署に赴いた。
あの子のためになるなら、何でも協力したかった。
俺は取り調べの警官に、先日公園で起きたことをまた繰り返した。
「どんな服装でしたか?」
「服は紫の長そでTシャツで、フリースみたいな灰色とピンクっぽいスカートで、靴下は履いてなくて、赤いスニーカーを履いてました」
「こんな感じですか?」
見せられたのは、女の子が着ていたのとすごく似た洋服を並べた写真だった。
「あ、こんな感じです」
俺は嬉しそうに言った。
「2回目会った時もおんなじ服で・・・」
「あ、そうですか・・・」
警官は気の毒そうに俺を見た。
「実は、この服、昨年起きた〇〇小学生殺害事件の被害者の服装なんです。公開されてますので、それをご覧になったんじゃありませんか?」
「え!?もう亡くなってるんですか?あの子?」
俺は絶句して涙声になった。
トイレで突然見えなくなったから、そうじゃないかという気もしていたんだ。
「はい。亡くなってます。マスコミには流れてないと思いますが、いわゆるネグレクトの状態で、お風呂も入っていなくて学校でいじめに遭っていたそうなんです。だから、江田さんの話を聞いて本人が言ったんじゃないかとびっくりしたんです・・・」
「はぁ・・・」俺はため息をついた。
「実は遺体が見つかったのは、あの公園なんです。トイレの裏に捨てられていて・・・夏だったから遺体からすぐ悪臭がして見つかりました。
まだ、自分が亡くなったって気が付いてないのかなって・・・」
警察の人は話しながら泣いていた。
俺ももらい泣きしてしまった。
「犯人は捕まったんですか?」
「それがまだなんです・・・」
「俺じゃないです・・・俺が部屋を探しに、〇〇駅に行った時、ちょうどパトカーがいっぱい来てて、昨日女の子がいなくなったって言ってたところだったので・・・俺はそれまで、東京の荒川区に住んでて・・・、前日は会社に行ってました。勤務先は〇〇〇っていう会社で、夜遅くまで仕事してました。去年だから、タイムカードもまだあると思います。」
「わかりました」
俺はそれ以上は調べられることはなかった。
会社には問い合わせが来たそうだけど。
俺は引越すまで、毎週土日にその児童公園に通った。
お弁当と洋服を持って。
1人で地面に屈みながら、四葉のクローバーを何時間も探した。
またあの子に会える時がくるかなと思いながら。
俺が何時間も草を見つめ続けているから、心を病んだ人みたいだっただろう。
話しかけて来た人全員に、亡くなった女の子がここに来て一緒に四葉のクローバーを探したんだよ、と話した。
やがて、他の子どもたちも集まって来て、みんなで四葉のクローバーを探すようになった。イケメンの警察官も時々加わった。
亡くなった子に供えるために、みんな必死で探した。
きっと、いいことあると思うよ。自分の言った言葉の軽さに苦悶した。
いいことって何?
犯人が捕まること?
自分が死んだと気が付くこと?
今も誰かが四葉のクローバーを探して、遺体が見つかった場所に備えてくれているだろうか。犯人は今どんな気持ちでいるんだろう。捕まらなくてラッキーと思って、過ちを繰り返しているだろうか・・・。神様がみんなを平等に幸せにするなら、犯人にとっての幸福もあるんだろうか。
俺は一瞬でも彼女を幸せにしてあげられただろうか。
一緒に遊んで楽しかっただろうか?
四つ葉のクローバーに意味はあった?
お腹いっぱいになっただろうか?
洋服をもらって本当はどう思った?
俺は自問自答する。
彼女に会わない限りは、もう答えを聞くことはできないのに。
行方不明の子ども 連喜 @toushikibu
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