2.5
今日は久々の外出する日だ。私は小型のロボットたちが入った専用のケースを両手で抱える。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
「うん!」
靴を転ばないようにゆっくり履いて、ドアをぐっと開く。
今日の外出の理由は、町の広場でロボットたちを売りに行くからだ。月に一度ほどしか行くことはないけれど、その時々で来てくれたお客さん各々が自分に合った子を買っていく。私の家には既にお父さんの作品も含めて本当にたくさんのロボットたちがいるから、私が作ったものは私たちが持っているよりも必要な人に届けた方がいいと思った。つまりはこれが私の仕事とも言える。
久々に見る街並みは、薄れていた記憶を鮮やかに塗り替えていく。立ち並ぶ真っ白の建物の壁に日の光が反射して眩しい。壁に絵が描けたら楽しそうだなとなんとなく思った。
そういえば今日はロイドはお留守番である。昨晩、今日持ってくる子たちの最終調整をしていて夜遅くなってしまい朝になって充電が切れかけていた。充電しながら待ってくれている。
町の広場は相変わらず穏やかで、賑やかだ。私はレジャーシートを敷いて近くにあった石で押さえ、その上でケースを開けた。
「あ、ミラだ!」
「またロボット持ってきたの?」
「わあ、久しぶりだねみんな!」
広場の近くに住む子供たちが近づいてくる。みんなよく私のロボットたちに興味を持ち、いろいろと聞いてくれるのだ。
「今日は、いち、に、さん……」
「10人もいる!」
「前来た時からしばらく経っちゃったからね」
「どんな風に動くの?」
「えっとね、まずこのくまちゃんたち」
私は電源を入れて、子供たちに一度靴を脱いでくれないかと頼む。
「この子はね、靴とかスリッパを綺麗に並べてくれるんだ。わざとバラバラに置いちゃって大丈夫だよ」
「こんな風?」
「うん、ありがとう」
私がロボットを置くと、ロボットはひとりでに動いて靴を揃え始める。もちろん同じ靴は隣に置いてくれている。
「おおーすごいね」
「でもまあ、みんながちゃんと揃えて置いておけばこの子も必要ないんだけどねえ」
「足が悪い人とかは助かるんじゃないかな、自分で脱いでから揃えるの大変そうだし」
「たしかに!」
「他の子は?」
「じゃあ次はこの子ね。この子は書類を番号順だったり、アルファベット順だったりに並べ替えてくれるんだよ。胸にボタンがあるでしょ、これを押すと番号順からアルファベット順に変えられる」
「題名を見て並べてくれるの?」
「そうだね。番号の時は『No.』も含めて探してくれるからそんなにバラバラになることはないと思うな」
「本とかもできる?」
「そんなに重くなければね。普通の文庫本くらいならできるよ。床の上に出しておかないとだけど」
そんな風に子供たちと話していると、周りに人が増えてきていた。
「あ、あの。靴並べのくまちゃん、いくらで買えますか」
と、わいわい話している子供たちとほとんど変わらない子がおずおずと話しかけてきた。
「いくらでも大丈夫だよ。価値って言ったら大層なものだけど、今出せる金額で大丈夫」
「えっ、でも」
「いいんだよ。お金じゃなくて、私はみんながこの子たちを使うことで幸せになってくれればそれで嬉しいんだ」
「……今このくらいしかなくて」
「うん、大丈夫。大切に使ってあげてね」
「……ありがとうございます!」
「あっ、えっとね。充電はなるべく毎日して欲しいな。大体1時間くらいで満タンにはなるし1日それで動くから。使わない時はおしりについてるスイッチで電源オフにしておいて、使う時につけて床に置けば並べ替えしてくれるよ」
「わ、分かりました」
「はい、じゃあ落とさないでね」
「ありがとうございます……!」
男の子は大切そうにくまちゃんロボットを抱えて家に帰っていく。きっと家族の足が悪いか、お母さんが妊婦さんなのか。家族思いの子だなと思って微笑ましかった。
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