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ある日、私がまた新しいプログラミングの仕方を学んでいると突然デスクライトが消えてしまった。
「あわわ、またやっちゃったかな……」
「ミラ、どうしましたか」
「またブレーカー落としちゃったかも」
「またですか」
「いつもの如くで悪いんだけど、ブレーカー切ってきてくれるかな」
「分かりました」
ロボットたちが一斉に充電に入ったか、お母さんが電子レンジでも使ったかしてブレーカーが限界を迎えたのだろう。うちはただでさえ電気を使う量が多いため、こうしてブレーカーが落ちることも多い。はあとため息をついてお母さんを探しに行く。
「お母さんごめーん! またブレーカー落としちゃったみたい」
「大丈夫よ、ミラは平気?」
「うん、たぶんロボットたちが充電たくさんし始めたんだと思う」
「いつもバラけるようにしているのに珍しいわね」
「うーん……なにかあったのかな」
すぐ戻ると思われた電力は、辺りが暗くなり始めてもまだ戻るとは思えなかった。もしかしたら一帯の停電かもしれないと思い始める。しかし私の家は住宅地からは離れた場所にあるため事実を知る術はない。それとも電気配線そのものがやられてしまったのではないかと怖くなってくる。
「大丈夫ですか、ミラ」
「うん……ちょっと不安だな、夜まで戻らないかもしれない」
「“りょうり”はできますか?」
「できないと思うな、この感じだと」
「……死なないですか」
「大丈夫、作らなくていい食べ物があるから」
こういう時のための非常食だ。買ってきておいてよかった。一晩をやり過ごして朝になればまずいかもしれない配線の確認もできる。
「お母さん、今日は非常食で大丈夫だよね」
「ええ、仕方ないものね」
キャンドルと、小さな光を灯せるロボットの力を借りて食事を終える。やはり非常食は味気なくて美味しくはなかった。
辺りが完全に暗くなった。そろそろ寝なければと思うが、不安で目が冴えてしまう。
「……ミラ、大丈夫ですか」
「ろ、ロイド。びっくりした」
「……怖いですか、ミラ」
「大丈夫だよ」
「いえ、いつもより呼吸が浅いですし、心拍数も少しですが上がっています。普通ではない」
「……ふふ、そうだった。ロイドはそういうことも分かっちゃうんだもんね。正直言って、すごく怖いよ。不安」
やめてしまった学校で、暗い倉庫のようなところに独りで閉じ込められてしまった時があった。あれが故意的なものだったか、それとも偶然だったのかは分からない。それからずっと、暗いところがトラウマで怖い。
「……僕は、どうすればいいですか」
「何もしなくて大丈夫」
「ですがミラは怖いと言いました。僕はミラの役に立ちたい」
「……じゃあ、手を繋いで欲しい」
「それだけ、ですか? 分かりました」
窓から薄く差し込む月の光を頼りに、ロイドの手を握る。温かい。急にほっとした。
「怖くなくなりましたか」
「……うん、ありがとう」
「眠れそうですか」
「……このままいてくれたら」
「分かりました。隣にいます」
ロイドは一度手を離す。ベッドに行けとでも言うようだ。私がベッドに入ると、ロイドは私のデスクチェイスをころころと器用に持ってきてそれに座った。
「おやすみなさい、ミラ。僕はここにいますからね」
「……ありがとう、おやすみ、ロイド」
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