2
ロイドとの生活にも慣れてきた頃。私は出かけているお母さんの代わりに晩ご飯を作っていた。ロボット、アンドロイドといえど彼らは機械だ。水は大敵である。
ロイドはお皿や出来上がった料理をゆっくりと運んでくれている。そろそろと持っていく姿はなんとなく5歳くらいの子供の様子を思い出させた。微笑ましい。
「……よし、できた」
最後の料理を完成させる。私がリビングへとそれを運ぼうとすると、ロイドが不思議そうにこちらに手を伸ばしていた。
「ミラ、僕が持っていきます。あなたがした指示です」
「大丈夫、これで最後だから。私が持っていくよ」
「……分かりました」
少し不服そうな感じに見えた。ふふと笑ってしまう。
一緒に過ごしている間に、簡単な感情のようなものが見えるようになってきた。私を見て、真似をしているのだろうか。私が笑うと少し口角を上げてみたり、私がいつだかにお母さんに怒られてしょぼくれていたのを見ていたのか少しきつく言うと申し訳なさそうにしていたり。指示に合わない行動を私やお母さんがすると驚いたようにきょとんとする。あどけない表情、反応がとても可愛らしいのだ。
「お母さん、どのくらいで帰ってくるかな」
「……おおよそ2キロないくらいかと。お母さんは車で出かけましたよね」
「うん。それならもう少しだね。というかなんで分かったの?」
「お母さんの携帯の場所を調べました」
すごいでしょうとでも言いたげに笑顔を浮かべるロイド。私はロイドの頭を撫でる。
「すごいね、なんでもできちゃう」
なんだか嬉しそうだ。こんなにも人間に近しいものが作れるなんて、本当にお父さんはすごい人だと思う。ロイドを残してくれてありがとうとお父さんに伝えたい。
「ロイドができないことってなんだろうね」
「たくさんあります。“りょうり”はできない」
「水を使うものは大体できないか。私も泳ぎはできないな」
「……? “およぎ”というのはなんですか?」
「たくさん水がある中に浮かんで、手足を使って水の中を進むんだよ。ちょっと待っててね」
私は携帯で水泳の様子の動画を調べる。
「……ほら、これ」
「……僕には到底できませんね」
「ふふ、そうだね。私もこんなに綺麗には泳げないしすぐに溺れそうになるから嫌いだな」
「ミラにも嫌いなものがあるんですね」
「そりゃもちろん。でも大丈夫、家の中のものは……もちろんみんなも含めて、嫌いなものは何も無い」
「幸せですね」
「ロイドも幸せ?」
「……分かりません。何不自由無いのが幸せならば、幸せだと思います」
「そっか。幸せなのは素敵なことだね」
その時、玄関からがちゃと鍵が開く音が聞こえた。お母さんが帰ってきたのだ。
「ただいまミラ」
「おかえりなさい、お母さん。晩ご飯出来てるよ」
「いつもありがとうね」
「うん」
「ロイドもありがとう、ミラを助けてくれて」
「いえ。そういう指示ですので」
そう言いつつ、なんとなく嬉しそうな微笑みを浮かべている気がした。
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