南雲 皋様主催「匿名短文開花ショタ企画」

11:北国の初夏 [性描写あり]

 性に寡聞かぶんなる少年しやうねんでこそ御座ござひましたが、ぢやう溌剌はつらつとした笑顏、肢體したいを御覽に爲るにつけ、何時いつとも知れ、胸部にて存在感を示し始めた膨らみに目が吸ひ寄せられるやうになつたもので御座ひます。世には男と女が居り、其のからだつきも違ふ。少年とて知識では存じて御出ででしたが、言はば彼れと己れとの違ひの樣なものでしか御座ひませんでした。孃を氣付かば追って仕舞ふ事を留め切れぬ御自身のままならなさに惑ひを覺へながらも、胸中には燈火ともしびごとき高鳴りも御感じになつて居られました。

 北國は、春も夏も短きもの。長き秋冬を乘り越へる爲の甲冑かつちうが如き衣服をまとはづれる、わづかないとま一通ひととほりの衣替へも濟み、樟腦しやうなうの香り未だ拔け切れぬ夏服に袖を通さば、心地ここちき輕さと、其處計そこはかと無しの心許無こころもとなさをも感じに居れぬので御座ひます。姿見鏡の前にてまはらば、此の服では未だ孃に逢へておらぬことを思ひ起こすのでした。孃の住まふ鄰家へと遊びに行かむと家人に言傳ことづてせば、幾つかのを袋に持たされます。母御ははごり鄰家とて衣替へに忙しからうし御邪魔に爲らぬ樣に、と釘刺しをたまはらば、少年はわかつてらいと舌を出し、服とともに輕くなつた足取りにて玄關を御開けに爲りました。

 太陽は東のかた、やや低く、なれど既に暖かきをあたりに振りまひて處ります。草木はほも朝露にしめり、てふが花の合閒を舞ふ。少年は大きく外の空氣を吸ひ、鄰家を見遣みやります。折しも屋根裏の窓が開き、孃が日差しに目を薄らがせて居る處に御座ひました。

!」

 少年が手を振らば、孃もぐ階下よりのこゑに氣付き、手を振り返されます。「一寸ちよつと待つてね!」と仰有るなりと音が、はぢ遠退とをのき、やがて玄關に近付きます。扉の開きしな、孃は少年を抱擁はふやう。起きたばかりだつたのでしやうか、少年の鼻腔びくふを得も言へぬ孃の香りが滿たします。

「御早やう、! 衣替へも濟んだのね、可愛かはひひわ、其の御服!」

 言ひたきこと、言はれたかつたこと、を先取りされて仕舞しまへば、少年に言へる事など碌々ろくろく有りません。

も、今日も可愛ひよ」

 と、口に爲さるのが精一杯。無論其れこそが孃の笑顏を輝かせる言葉だとも御存知で居られたのですが。

がたう!」

 少年よりも頭上から屆けられる、其の綺麗に揃つた白き齒の、つややかなる唇の輝きを見るにつけ、少年の顏に、知れ熱が籠もつて仕舞ふのです。悟られるまひぞと顏を反らせ、と手にしたを御差し出しと爲ります。も、始めからを屆けるのが用事であつたかの樣に。

「こ、此れ! 今朝、澤山採れたからつて」

「え!」

 少年が幾ら上に揭げたとて、孃との背の違ひは如何だうにも爲りません。孃も又た、上體を傾げねばなりません。

 其處で、少年は見てしまふのです。

 暖かくなつた頃合ひの、襟ぐりも廣くなつた寢閒着。僅かに覗かせた鎖骨の、其の奧に潛む、

 服の上からでは、ひと連なりの盛り上がりとしか見へていなかつた膨らみの、其の、谷閒。兩岸の山は決して高ひとこそ言へぬものの、、また

!」

「あ!」

 と、家の奧から響く、孃の母御よりの叱咤しつた孃は慌てて振り返るも、と動きを止め、少年に上體のみを向け、人差し指にて其の額を輕く突きます。

「御免ね、うちもいま衣替への途中なの。又た後で遊びましやう。、有り難うね!」

 ひとつを殘し、孃は屋內に引き返されました。閉まつた玄關の向かふからは、そんなはしたなき格好で、と母御の叱責が飛ぶも、孃はにて直ぐ樣買收を果たした……やう、でした。

 やうでした、と書くのは、此の時の遣り取りを少年は上手く思ひ出せぬのです。頭の中に有つたのは、見てはならぬものを見て仕舞つた罪深さと、其れを遙かに上回る、初めて感づる、昂ぶり。

 丹田たんでんの下が、と固まります。眞面まともに立てぬ程です。少年はたまらづ、兩家の合閒の路地に潛り込みました。

 目を瞑れば、孃の笑みが、白き齒、唇、が。そして、が際限無くめぐります。丹田の下は益々ますます固く爲り、りとて少年には其れを如何いかんとする術も無く、だ丹田の下を撫で擦るより他御座ひませんでした。

 息も荒らぎ、うめくかの樣にと名を呼びます。遂には揉みしだくにまで至り、やがて少年の腦裡なふりにはすべてをくすかの樣な光がほとばしるのでした。

 其の後の少年につひて詳細をつたへるのは、少年の名譽めひよにもかかはるため、避けてきましやう。ほんの僅か、此の幼なじみの閒柄がかわつた、とだけ最後に述べて置く事と致します。

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