板野かも様主催「四季の宴」編遅刻作
どうすれば2日間違えるのか
【 遅刻作 】こたつdeカクヨムライフ
いとしのマイスイートハニー、ことウルトラ天才小説家未奈美からいきなり呼び出しを喰らい、キーボードを打つ手が止まっていた俺は、これ幸いと未奈美の家に向かうこととした。
「よっす、おつかれー!」
「うるせーこっちは乗ってたんだぞ」
そう言って俺が突き出したお茶だ菓子だの入ったビニール袋、を持つ手を握り、いきなり未奈美は引っ張ってくる。慌てて靴を脱ぎ、ついていく。
「っつーかなんだよ、そんな急かして」
「見りゃわかるって、せーの」
サプライズのためか、わざわざリビングの引き戸を閉めてたりもする。芸が細かい。そこがガラッと開けられれば、
「こたつ!」
リビングのど真ん中に、どんと鎮座する圧倒的存在感。とはいえ、たぶんお下がりだったんだろう。掛かる布団はやや茶むくれたブラウン。青基調の未奈美の部屋の中ではやや――いや、嘘だ。めちゃくちゃ浮いている。
未奈美は俺の手を離すと、一足先にノートパソコンを開いてある場所に飛び込み、俺にこいこいと手招きする。
そいつを見た、俺。
思わず、盛大に嘆息する。
「え!? まさか、蘆名ってコタツが――」
「いや、好きだ、愛してすらいる。なんならお前と同じくらい」
「すごい愛だわそれわ。なら、なんでため息なの?」
「こたつのデバフがヤベェーからだ」
「デバフ」
いきなりのゲーム用語(弱体化とか、そういう意味だと思ってくれればいい)に、思わず未奈美さんが居住まいをお正しになった。
「いや、わかるよ? いちど吸い込まれたら抜け出しきれない、この魔力! もう他に何もしたくなくなるもんね」
「言っても、お前がやるのって執筆だろ? むしろ文字数は上がるんじゃね?」
「確かに。ならバフじゃない?」
などと平然と抜かしてくるので、俺はもう、黙って手を伸ばす。頬にかかるミディアムボブをかき分け、つまむのは、首。
「あらやだお嬢さん、だいぶカチコチでしてよ」
言って、俺は未奈美の背後に回り、肩を掴む。ご多分にもれず、見事にこちらもカチコチである。
「シンプルに言うぞ。人間、下を向けば首こり、肩こりにまっしぐらだ。ましてこたつなんてな、そこに猫背のボーナスまでつく。しかも気持ちよくて抜け出せない。そしたらあとはみごと首肩カチコチの実の能力者爆誕だ」
ぐに、と肩を揉んでやると、おふぅと声が漏れる。
「えー、けどさ、今更じゃん、肩こりなんて。そんなんあっても書けてるよ?」
「それはお前の気力がやべーからだ。普通肩こり首こりが溜まるとそっちに気が取られる。ただ慢性的になると、いちいち気にしても仕方ないので、無意識のうちにそういうもんとして受け入れる。つまりお前はバキバキのデバフがかかってんのに書けちゃってて凄い」
「うちの彼氏の褒め殺しがやばい」
「事実の指摘だからな。では未奈美くん、そのデバフから少しでも解放されるとしたら、どうだね?」
「んー……わかんない、けど興味はある、かな?」
「そうだな。まぁ信じろっていう気はない。話半分で聞いてくれればいいさ」
言って俺は、今度は未奈美の腹に手を当て、ぐっと押す。ふわりと漂う未奈美の香りにくらりときかけながら。
「俺らってだいたいの場合、腹が前に傾いてんだよ。まず、こいつをまっすぐに立てる」
「うそ、めっちゃのけぞってんだけど」
「ふだんから前傾が当たり前になってるからな。けど腹が立って、ケツの割れ目の始まり辺りまで椅子の圧が来る状態、こいつが本来のまっすぐだ。別に後ろにつんのめる感じもないだろ?」
「うん」
俺はうなずくと、続いて未奈美の両肩に手をかける。
「腹が倒れてると、肩も重力に負けるんだよな。本来真横についてるべきもんが、斜め前に突き出すようになる。こいつも、真横に戻してやる」
ぐい、と肩を真横になるよう引いてやると、「うぉおっ!?」と未奈美が声を上げた。
「胸の筋肉がミシミシ言ってる!」
「ずっと胸筋が縮んでたわけだからな。これだけでちょっとしたストレッチにもなる。イメージとしちゃみぞおちを張り出す、とも言うな。ここが広がると肺の容量も上がるから、呼吸効率も上がる。つまり、脳に酸素もめぐりやすくなる」
「なるほどね。けど、これだとノート見るの厳しくない?」
「諦めろ」
「へ?」
振り返り、俺のほうを見る未奈美。
「それじゃ書きようないじゃん」
「そもそもノート見れば下向きになるんだ。そいつが元凶だ。だからサブディスプレイをノートの後ろに置く。で、まっすぐ前を見たときにディスプレイの上四分の一あたりが見れるように高さを調節して、姿勢を維持したまま作業できるようにする。ノートはもうキーボード兼資料閲覧マシンって割り切るといい」
「うへぇ、思い切るもんだね……あと蘆名、もう一ついい?」
「どうした?」
「この体勢、割と腹筋つらい」
真剣な顔。
だので、俺も真剣な顔でうなずく。
「言い忘れてた。この体勢、今まで甘やかしてた腹筋背筋に活を入れるようなもんで、つまり慣れないうちは割と筋トレだ」
「ち、ちょっと! それじゃ執筆中、ずっとぷるぷるしてろって!?」
「習慣を変えるわけだからな。当然身につけるまでは結構キツい。ただ身につければ首肩のコリはかなり軽減されるぞ」
「それって結局デバフじゃん……」
「だからまぁ、話半分に聞いてもらうしかないんだ。首肩デバフから解放されてほしい、は、あくまで俺の願望でしかないしな。あと、思い出したときにやるだけで軽いストレッチと深呼吸にはなる。気分転換にも使えなくはない」
「そっちのほうがわたし向きかな。まぁ、騙され半分でやってみるよ。とにかく今は、早いとここたつを味わいなさいな」
「だな」
俺もこたつに足を突っ込むと、早速みかんが目の前に現れた。周到なことだ、ありがたくいただき、皮を剥く。
「ところで蘆名」
「ん?」
「これ短編コンテスト作品だよ? オチとかつけないとまずくない?」
俺は胸を張る。
「オチ? 必要ない。こたつにミカンで冬の要件はバッチリだしな。あとは未奈美、そして読者さまにこりを軽減できるヒントを示したい、そいつが全てだ。皆様のこたつdeカクヨムライフに幸あれかし!」
「うわー言い切りやがったこいつ」
- 劇終 -
皆様のこたつdeカクヨムライフに幸あれかし。(作者)
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