【Ex- 106】「陽炎ちゃんと腸炎ちゃん」解説編

 ひさびさの匿名コン参加、楽しかったです! 板野かもさん、ご開催ありがとうございます!


 さて上掲作、板野かもさんのツイート

「外国人の日本語学習者から、「腸炎」と「陽炎」はなぜ字が似ているのかと聞かれて、日本語ネイティブからは到底出て来ない発想に頭を抱えたという話を思い出した……。」

https://twitter.com/itano_or_banno2/status/1527119376360828928


 に触発された、というのは、もはや皆様ご存知のことかと思います。あれを読んで自分は「まあ、偶然としか説明できないよね……」と思ったのですが、では、どれくらい偶然だったのか? が気になり。で、どうせ調べるなら匿名コンにこじつけてやろうと、書き途中のやつ(着手は4月!)を放置して取り掛かりました。 

 あっちなみに書きかけのやつは結局完成しませんでした。


 上掲作で引いた字源や語源は、大体を中国哲学書電子化計画、漢典、あるいはwiktionaryに依っています。いちいちリンクを貼るときりがないので、興味があれば飛んで引いてみてください。なお物語的にあれなので断言こそしてますが、「正しい語源」ではありませんのでね。そこはご注意ください。


炎:

『說文』(漢)火光上也。

『玉篇』(南北朝)熱也,焚也。

 火の強化版、って説明は現代使われることが多い表現なので採用した感じです。


陽:

『康熙字典』(清)與佯同 。

 佯が「いつわる」という意味。正直なんでこの字に「いつわる」の意味があったのかよくわからないんですが、あえて言えば丘に日があたったときの光と影の二面性かなぁ…と推測した感じです。

 ただ昔の中国って、口述筆記の際同音異義語を誤って書いてしまっても「音が同じということは意味も同じ!」で押し通した臭い雰囲気があるんですよね。これやられると語源もクソもなくなるので、割とちょくちょく「○すぞ……?」ってアルカイックスマイル浮かべてます。


陽炎:よくわからない。

 中国語だと「耀眼的阳光」、要は太陽の輝きとなります。

 一方日本での意味は「春のうららかな日に、地上から立つ水蒸気によって光がゆらいで見えるもの」。全然意味が違うんですよね。なんでこの字が宛たったのかよくわかりません。

 なので「火もないのに空気が揺らぐ」ところに、炎の『說文』における解釈「火光上也」を援用しました。空気が揺らぐ、けどそこに火はない。よって「いつわりの炎」。太陽から引っ張られている感じもなくはないんですけど。

 ちなみに古語とか見ると火ひと文字で「かぎろひ」って宛てたりもしたそうです。もうわけわからんね。


炎症・腸炎:

 いわゆる和製漢語ですね。江戸末期から昭和始め、外国の言葉を日本語に置き換えるべく行われた活動の一環で生まれたもの。ただ腸炎は inflammation of the intestint のほか、enteritis という単一単語でも表現するそうです。こっちの語源も気になる……。


腸:

 昜について調べると、「ただ、音を借りただけのもよう」とか出られて死にそうになります。そんなことってある? なお作中で触れた字「脹」は、もともと「膨張」で遣われていた字のようです。変換もできますね、膨脹。

 ……ところで『正字通』には、腸の容積が『穀物なら二斗四升、水なら六升三合入ります』と書かれてました。わぁーぉ☆ どうやって調べたんだろ、ふっしぎぃー☆


昜:

 なんで易に一本線が入るだけで全く別の読みになるんだいいかげんにしろって思いました。白と百を見習え!(一と二から目をそらしながら)

 原義は作中に触れたとおり、日の出で太陽が地面から顔を出した様。まぁ相当酔っ払ってれば長に見えないこともない気はしますが、それにしたってさぁ。


 まー何てんでしょう、調べてみたはいいけどさっぱりわからん、が結論です。あと言葉の意味の決め方雑すぎだろいい加減にしろ。

 ただ炎症として用いられる「炎」は明らかに新しい用法なので、その一点だけとっても「偶然」と言うより他ないんですよね。


 というわけで、調べ物ついでに強引に再会をねじ込み、短編とさせていただいた次第でございます。やったね! もうちょっと計画的に生きようぜ!

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