解説

解説

 第四回「光&闇」編は参加できたんだっけな。確かできなかったんだと思います。それで第五回も、この一篇のみ。


【過去075】中世古城址での逢引き


 こいつ、結構気に入ってるんですよね。というのもトマス・ハーディの書いた短編「古代土塁の逢い引き」をオマージュできたので。それは筆者が古代の城塁跡を探索、そして遺構に立ったときに抱いた実感でした。


Whether he were some great one of the Belgae, or of the Durotriges, or the travelling engineer of Britain’s united tribes, must for ever remain time’s secret; his form cannot be realized, nor his countenance, nor the tongue that he spoke, when he set down his foot with a thud and said, ‘Let it be here!’

 この場所に城塁を建てようと思ったのは、何人なのかもわからない。ベルギー人か、ドゥロトリゲス人、あるいはイギリス人であったかも。それらはすべて歴史が覆い隠している。

 だから、かれがどんないでたちで、どんな表情で、そしてどのような表現でもって、この地に足を踏み下ろし「ここに決めた!」と口にしたのかもわからない。


 いやもちろん原文で読むなんておハイソな真似はできてないですよ!? 岩波文庫のハーディ短編集に入ってたんだけど、どっかになくしちゃったんですよね。新しく買った短編集には入ってなくて。だので泣く泣く原作英文まで掘りに行きました。はぁ、やっぱり好きな言葉です。「こうしていまは同じ場所に立っているはずなのに、時間の隔たりにより、当時に何が起こったのかをわからなくしている」。こういう歴史の隔たりを実感できる言葉にはロマンが感じられてなりません。


 その感慨を、じぶんちの近所にある山城跡、つまり河村城に行ったというていで言わせてみました。11名の方にハートを頂戴し、5名の方よりコメントを頂戴したそうです。ただ、かれらがどんなメンツで、どんなタイミングで、そしてどのような言語でもって、コメントして下さったかはもうわかりません。これもまた、歴史が覆い隠すところ。



 ちなみに、ここで書いた作品で思いついた内容が他小説サイト「ノベルアッププラス」さまで展開している「戦史としての足柄平野史」

https://novelup.plus/story/650268268

に、繋がっています。着想が別の着想を呼ぶ。そういったところを楽しめるのも小説遊びの醍醐味ですね。



【未来030】未来の喪失


 あっ嘘だ、これも公開してました。参加当時「名は伏せておいて下さい」とお願いした上での参加でした。なぜなら実話だからです。こいつを書いたちょうど一年前、ひとりの中国史クラスタが自殺しました。そいつに対してのモヤモヤを、匿名なのにかこつけて、どうにかして吐き出したかったやつです。


 作中に書いてる通り、そいつに対しては、おそらく「何をしてやれたか」なんて考えるだけ意味がなかったんだろうなーって思っています。ただ、そいつとやりとりをした時間、過去だけがぽっかり空いている。未来編に入れて頂いたのは、「あいつが生きていたら、未来のこの辺にいたんだろうな」みたいなことをぼんやりと思ってしまったがゆえ。


 10名の方にハートを頂戴し、6名の方よりコメントを頂戴しました。あいつの存在が、誰かの心にも届いてくれたと信じて。

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